喉がイガイガして咳が止まらない。でも病院に行くほどではない。もし旅先や滞在先のイギリスでその状態になったら、あなたは誰に、どんな英語で相談しますか。
日本のように「近所の内科へ行けばその日に診てもらえる」という前提が通じない国では、頼る先も、伝え方も変わります。そしてイギリスでその窓口になるのが薬局であり、そこで差し出されるのが化学的に合成された薬と並んだハーブなのです。
この記事では、イギリスでハーブが医療として扱われている理由と制度、メディカルハーバリストという職業の実態、代表的なハーブの使い分け、そして薬局で症状を伝える英語の型と会話例までをひと続きに追っていきます。読み終えたときには「なぜイギリスではハーブなのか」が腑に落ち、同時に 今日から言える短い英語の型が手元に残っている状態を目指します。
体調の話は、旅行英会話のなかでもっとも切実で、もっとも言い間違えたくない分野です。発音やニュアンスまで含めて練習を積みたい場合は、英語教室のような対話の場で試すと定着が早くなります。まずは、イギリスの医療の入口から見ていきましょう。

町医者が多くないイギリスの医療事情
- イギリスはNHSが原則無料で医療を提供する代わりに、患者はまずGP(一般医)に登録し、そこを唯一の入口として医療にアクセスする
- 専門外来には緊急時を除きGPの紹介状(referral)が必要で、大病院に飛び込むという発想が成り立たない
- GPの予約が数日から数週間先になることもあり、軽い症状では待っている間に治ってしまう
- その隙間を埋める窓口として薬局(pharmacy/chemist’s)が医療の最前線を担い、ハーブもそこで登場する
イギリスでハーブが生き残った最大の理由は、植物への愛好心よりも医療制度の構造にあります。医師にすぐ会えない環境が、身近な選択肢を必要とし続けたからです。
日本では内科や耳鼻科の看板が街のあちこちにあり、喉が痛ければその日のうちに診てもらえることも珍しくありません。保険証を持って窓口へ行けば、初診でも専門医にかかれます。この「自由に医療機関を選べる」仕組みは、世界的に見るとかなり恵まれた環境です。
イギリスの医療は考え方がまったく違います。国民保健サービス(NHS/National Health Service)が原則無料で医療を提供する代わりに、患者はまず地域のGP(General Practitioner/一般医)に登録し、その一人の医師を入口として医療にアクセスします。病院の専門外来にかかるには、緊急時を除いてGPの紹介状(referral)が必要です。
つまり医療の入口が一か所に絞られているのがイギリス型です。無駄な重複受診が起きにくい反面、その入口が詰まると全体が詰まります。
GPの予約が取れないという現実
その入口であるGP自体が、すぐに使えるとは限りません。地域や時期によっては予約が数日から数週間先になることもあり、朝の受付開始と同時に電話が集中してつながらないという話もよく聞かれます。
喉の痛み、軽い咳、頭痛、胃の不快感。こうした「病院に行くほどではないけれど放っておくのもつらい」症状のとき、予約待ちをしていては治るほうが早いという状況が日常的に起こります。日本の感覚で「とりあえず受診」と考えていると、選択肢がないまま数日を耐えることになりかねません。
そこで頼られるのが薬局
こうした事情から、イギリスでは薬局(pharmacy/chemist’s)が医療の最前線として大きな役割を担っています。イギリスの薬剤師は日本より広い裁量を持ち、所定の研修を修了した薬剤師には一定の処方権が認められています。
軽症の症状は薬局で相談して対処し、必要と判断されればGPや専門医につなぐ。この流れが定着しているため、薬局は「商品を買う場所」ではなく「相談する場所」として認識されています。カウンター越しに症状を話し、いくつか質問を受け、対処法を提案してもらう。この一連のやりとりが日常です。
そしてこの相談窓口で、合成医薬品と並んで登場するのがハーブです。店の奥にガラス瓶が並び、症状に合わせて茶葉やチンクチャー(アルコール抽出液)、シロップ、錠剤、外用のクリームなどが選ばれていきます。ハーブ専門の薬局や、メディカルハーバリストが常駐する店では、じっくり話を聞いたうえで処方が組まれます。
では、そのカウンターでは実際にどんな英語が交わされているのでしょうか。会話をそのまま追ってみます。

薬局でハーブを処方してもらう英会話
- 会話の骨格は「相談できるか確認 → 症状を言う → 質問に答える → 処方を受け取る → 礼を言う」の5手だけ
- 使う文型は I have + 症状 が中心で、難しい医学用語は必要ない
- ハーバリスト側からは running nose(鼻水)などの有無を確認する質問が来る
- 会話の最後に慢性的な不調の相談も受け付けていると案内されるのがイギリスの薬局らしい点
薬局でのやりとりは、短い文の積み重ねで成立します。長い説明を組み立てる力よりも、症状を一文で言い切る力のほうが役に立ちます。
理由は単純で、相手が専門家だからです。こちらが断片的な情報を出せば、必要なことは向こうから質問してくれます。ですから学習者に必要なのは、最初の一文を確実に言えることと、はい・いいえを正しく返せることに尽きます。
実際の流れを、学習者とメディカルハーバリストのロールプレイとして見てみましょう。
- 会話(薬局のカウンター)
- 学習者:Hello, I heard that I can get some medical herbs in this pharmacy.
ハーバリスト:Hello. Yes, you can. What happens to you?
学習者:I have a sore throat.
ハーバリスト:Do you have a running nose?
学習者:No, I don’t. But I have bad coughs.
ハーバリスト:Okay, then I prescribe mullein for you. I give you in tea bags for 2 weeks.
学習者:Thank you.
ハーバリスト:If you have any problems which worry you in chronic bad condition, come here and have counseling. We can give you appropriate herbs to you.
学習者:Thank you, again. - 日本語訳
- 学習者:こんにちは、この薬局で薬用のハーブを頂けると聞いたのですが。
ハーバリスト:こんにちは。ここで大丈夫ですよ。どうされましたか?
学習者:喉が痛いのです。
ハーバリスト:鼻水は出ていますか?
学習者:いいえ、出ていません。でも咳がたくさん出ます。
ハーバリスト:わかりました。ではマレインを処方しますね。2週間分の茶葉をお渡しします。
学習者:ありがとうございます。
ハーバリスト:もし慢性的な不調で悩むようなことがありましたら、ここに相談に来てください。適切なハーブをお渡しできますよ。
学習者:度々ありがとうございます。 - 使う場面
- ハーブを扱う薬局や、メディカルハーバリストが常駐する店のカウンターで、風邪の初期症状を相談するとき。一般の薬局で市販薬を相談する場合も、ほぼ同じ流れで進みます。
- 注意点
- この会話は口語で、教科書的な形からずれている箇所があります。What happens to you? は自然な言い方としては What seems to be the problem? や How can I help you? が一般的です。bad coughs のように coughs と複数にするのはやや不自然で、a bad cough が標準です。I give you in tea bags も I’ll give you the dried leaves in tea bags のように目的語を補うほうが正確です。実際の現場ではこうした崩れた英語でも十分に通じますが、自分が真似する型としては整った形を覚え
- 発音・ニュアンス
- sore throat は「ソア・スロウト」で、throat の th は舌先を上の前歯の裏に軽く当てて息を出します。mullein は「マレン」に近く、後半は弱く飲み込むように発音されます。herb はイギリス英語では h を発音して「ハーブ」に近く、アメリカ英語では h が落ちて「アーブ」になります。イギリスの薬局では h のある発音が自然です。
喉の痛みと咳という一時的な症状で訪れた薬局ですが、話の最後には慢性的な不調に対する相談も受け付けていることが伝えられました。単に商品を売る場所ではなく、体調について継続的に相談できる窓口になっているところが、イギリスの薬局の性格をよく表しています。
会話に出てきた単語と言い回し
短い会話のなかに、押さえておく価値のある語がいくつも入っています。ひとつずつ意味と使い方を確認します。
Medical Herbalist(メディカルハーバリスト)
治療を目的としてハーブを処方する専門職で、イギリスでは専門機関の認定という枠組みのなかで職業として成立しています。単に植物に詳しい人ではなく、解剖生理学や病理学、薬理学まで学んだ臨床の専門家です。
I have a sore throat.(喉が痛い、喉がイガイガする)
体調不良を伝える表現のなかで、もっとも使用頻度が高い一文です。sore は「触ると痛い、ヒリヒリする」という感覚を表し、sore muscles(筋肉痛)のようにも使えます。
I have a running nose.(鼻水が出る)
会話中では冠詞が省かれていますが、教科書的には a running nose あるいは a runny nose とします。日常会話では My nose is running. という言い方もよく使われます。鼻づまりのほうは I have a blocked nose.(イギリス英語)や a stuffy nose(アメリカ英語)です。
prescribe(処方する)
名詞形は prescription(処方/処方箋)です。The herbalist prescribed me some chamomile.(ハーバリストがカモミールを処方してくれた)のように使います。逆に「処方箋なしで買える薬」は over-the-counter medicine、略して OTC です。
mullein(マレイン/ビロードモウズイカ)
日本ではあまり耳にしないハーブですが、喉の不調や咳、気管支の不快感をやわらげる目的で古くから使われてきました。ふわふわした毛に覆われた葉が特徴で、粘膜をうるおし、痰の排出を助ける働きがあるとされています。イギリスの薬局では乾燥葉やティーバッグ、シロップの形で扱われます。
chronic bad condition(慢性的な不調)
医療現場では chronic condition(慢性疾患)という言い方が定型です。反対に一時的で急な症状は acute と表現します。acute pain(急性の痛み)と chronic pain(慢性の痛み)は、症状を説明するときの重要な対比です。
アメリカで chemist と言うと「化学者」に受け取られ、薬局を探しているつもりが伝わりません。逆にイギリスで drugstore と言っても店の看板と一致せず、道を尋ねた相手が戸惑うことがあります。国をまたいで移動する場合は、どこでも通じる pharmacy を基本形として持っておくと迷いません。
単語がそろったら、次はそれを載せる文の骨組みです。症状を伝える型は、驚くほど少ない数に絞れます。
症状を伝える英語の型は4つで足りる
- 「I have + 症状」「I feel + 状態」「部位 + hurts」「期間・変化を添える」の4つで大半の場面に対応できる
- 単語を入れ替えるだけで応用できるため、覚える負担が小さい
- 期間と悪化する条件を添えると、相手は原因を絞り込みやすくなる
- ハーブの処方は体質と経過を重視するため、生活の変化まで話せると提案が的確になる
症状を伝える英語は、単語を覚える前に型を覚えるほうが早く使えるようになります。型が決まっていれば、あとは症状名を差し替えるだけで文が完成するからです。
型1:I have + 症状
名詞の症状を持ってくる形で、もっとも汎用性が高い型です。
- I have a headache.(頭痛がします)
- I have a stomachache.(お腹が痛いです)
- I have a fever.(熱があります)
- I have a cough.(咳が出ます)
- I have a rash.(発疹が出ています)
- I have a sore throat.(喉が痛いです)
- I have a blocked nose.(鼻がつまっています)
- I have diarrhoea.(下痢をしています/イギリス式綴り)
- I have hay fever.(花粉症です)
イギリス英語では I’ve got a headache. のように have got を使う話し方も非常に多く、耳にする頻度は I have と同じくらいです。どちらでも意味は変わりません。
型2:I feel + 状態
形容詞で自分の感覚を述べる型です。数値化できない不調に向いています。
- I feel dizzy.(めまいがします)
- I feel sick.(吐き気がします)
- I feel exhausted.(ひどく疲れています)
- I feel bloated.(お腹が張っています)
- I feel weak.(力が入りません)
- I feel restless at night.(夜に落ち着かず眠れません)
I feel sick. はイギリス英語では「吐きそう」という意味が強く出ます。「体調が悪い」と言いたいだけなのにこの一文を使うと、相手はトイレの場所を案内するかもしれません。全体的な体調不良を伝えたいときは I’m not feeling well. や I feel unwell. のほうが誤解がありません。
型3:部位 + hurts
痛む場所をはっきり示したいときの型です。指で示しながら言えば、語彙が足りなくても伝わります。
- My throat hurts.(喉が痛みます)
- My lower back hurts when I bend.(かがむと腰が痛みます)
- My ears hurt when I swallow.(飲み込むと耳が痛みます)
- It hurts here.(ここが痛みます)
痛みの質を添えられると、さらに正確になります。sharp(刺すような)、dull(鈍い)、throbbing(脈打つような)、burning(焼けるような)の4語を覚えておくと、I have a dull pain in my stomach.(胃に鈍い痛みがあります)のように説明できます。
型4:期間と変化を添える
症状名だけを言うより、いつからどう変化しているかを足すだけで情報量が一気に増えます。
- It started three days ago.(3日前から始まりました)
- I’ve had it for about two weeks.(2週間ほど続いています)
- It gets worse at night.(夜になるとひどくなります)
- It comes and goes.(出たり治まったりします)
- It’s getting better slowly.(少しずつよくなっています)
- Nothing has helped so far.(今のところ何も効きません)
ハーブの処方は体質と経過を重視するため、いつから、どんなときに強くなるのか、生活で何が変わったのかを話せると的確な提案につながります。I’ve been sleeping badly since I changed jobs.(転職してから眠りが浅いです)のような生活の情報も、この分野では立派な診断材料です。
薬局で役立つやりとりのフレーズ
- 「〜に効くものはありますか」を意味する Do you have anything for 〜? が最強の万能フレーズ
- 副作用、飲み合わせ、頻度、期間の4点は必ず自分から確認する
- 服用中の薬、アレルギー、妊娠・授乳の有無は、聞かれる前に伝えるのが安全
- 聞き取れないときは書いてもらう依頼文を用意しておくと会話が止まらない
薬局で本当に必要なのは、症状を言う力よりも「確認する力」です。渡されたものをどう使うか分からないまま持ち帰るのが、いちばん困る結果になります。
相談窓口としての薬局は、質問されることを前提に構えています。遠慮して黙るより、短い疑問文をいくつも重ねるほうが歓迎されます。
- フレーズ
- Do you have anything for a sore throat?
- 日本語訳
- 喉の痛みに効くものはありますか。
- 使う場面
- 薬局に入って最初に言う一文として。for のあとを a cough、a headache、hay fever、insomnia などに差し替えれば、あらゆる症状に対応できます。商品名が分からないときの最短ルートです。
- 注意点
- I want a medicine. と言ってしまう学習者が多いのですが、medicine は基本的に不可算名詞なので a medicine は不自然です。さらに I want は要求として直接的に響きます。Do you have anything for 〜? という形にすれば、名詞の可算・不可算も要求の強さも同時に回避できます。
- 発音・ニュアンス
- anything for は「エニシング・フォー」と区切らず「エニシンフォ」とつなげて言うと自然です。文末を軽く上げると柔らかい依頼になります。
- フレーズ
- I’m taking blood pressure medication. Is this safe to take together?
- 日本語訳
- 血圧の薬を飲んでいます。一緒に飲んでも大丈夫ですか。
- 使う場面
- 常用薬がある人が、ハーブ製品や市販薬を勧められたとき。blood pressure medication の部分を an antidepressant(抗うつ薬)、a blood thinner(抗凝固薬)、the pill(経口避妊薬)などに置き換えて使います。
- 注意点
- この情報は聞かれるまで待つのではなく、自分から先に出してください。ハーブは植物由来でも医薬品と相互作用することがあり、この一文を言わなかったことが最大のリスクになり得ます。薬の名前が言えない場合は、薬のパッケージや写真を見せるだけでも十分に役割を果たします。
- 発音・ニュアンス
- medication は「メディケイション」で第3音節に強勢が来ます。together は「トゥゲザ」で、イギリス英語では語末の r をほとんど響かせません。
そのほか、そのまま覚えて使える確認フレーズをまとめます。
- Is this available without a prescription?(これは処方箋なしで買えますか)
- Are there any side effects?(副作用はありますか)
- I’m pregnant./I’m breastfeeding.(妊娠中です/授乳中です)
- I’m allergic to aspirin.(アスピリンにアレルギーがあります)
- How often should I take it?(どのくらいの頻度で飲めばいいですか)
- How long should I continue?(どのくらい続けたらいいですか)
- Should I take it before or after meals?(食前ですか、食後ですか)
- Can I take this with alcohol?(お酒と一緒でも大丈夫ですか)
- Is there a cheaper option?(もう少し安いものはありますか)
- Could you write that down for me?(書いていただけますか)
- Sorry, could you say that again more slowly?(すみません、もう少しゆっくり言っていただけますか)
- Should I see a GP if it doesn’t improve?(よくならなければGPに行くべきですか)
服用中の薬やアレルギー、妊娠の有無は、ハーブを扱う場面では特に重要な情報です。植物由来だからといって作用が穏やかとは限らず、医薬品との相互作用が知られているものもあるため、必ず自分から伝えるようにします。
ここまでで、薬局で困らないだけの言葉はそろいました。次に気になるのは、そもそもなぜイギリスの薬局にハーブが並んでいるのかという点でしょう。二千年近くさかのぼる話になります。
イギリスでハーブが医療として根づいた背景
- イギリスの植物相は約1600種で決して豊かではなく、その乏しさが逆に丹念な研究心を育てた
- 紀元50年ごろローマ兵が薬草の知識を持ち込み、撤退後は修道院が薬草園と写本で受け継いだ
- 16世紀のウィリアム・ターナーが知識を専門家の独占から庶民の生活知へ広げた
- ヘンリー8世の1518年「ハーバリスト憲章」が民間の治療者の権利を法的に保護した
- 魔女狩りで書物と知識の一部が失われたが、口伝えで台所と庭先に残り続けた
イギリスのハーブ文化を語るとき、意外に思われるのが「もともと植物の種類が豊富な土地ではなかった」という事実です。
イギリスの植物相はおよそ1600種ほどで、大陸ヨーロッパや温暖な地域と比べると決して多くありません。そのうち4分の1程度が薬用に使われてきたと言われます。手持ちの植物が限られていたからこそ、一つひとつの性質を丹念に調べ上げ、外から入ってくる新しい薬草に強い憧れを抱いた。この乏しさが逆に研究心を育てたという見方があります。
ローマ兵が持ち込み、修道院が守った知識
人がハーブを意識的に用い始めたのは新石器時代までさかのぼり、医学の記録として植物が登場するのは紀元前3000年ごろとされます。古代ギリシャ、古代ローマで薬草の知識は体系化され、書物として蓄積されていきました。
ブリテン島にその知識が入ってきたのは紀元50年ごろ。島を侵略したローマ兵たちが、傷や病気の手当てのために薬草を携えてきたことがきっかけです。武器と一緒に薬が運ばれてきたわけで、軍隊の遠征が医療知識の輸送路になっていました。
ローマ撤退後、その知識を受け継いだのはキリスト教の修道院でした。修道士たちは薬草園を整え、写本を通じて処方を伝え、旅人や病人の治療にあたりました。印刷技術のない時代、手で写すという地味な作業が知識の生命線でした。
ただし持ち込まれたハーブの多くはイギリスの気候では育たなかったため、治療者たちは島に自生する植物を観察し、代用となるものを探し出していきました。この試行錯誤が、イギリス独自の薬草知識の土台になります。
区画をきれいに仕切ったフォーマルなハーブガーデンの様式も、この時代に生まれたものです。長方形や正方形に整えた花壇は見た目の美しさだけでなく、必要なハーブを迷わず摘み取れる実用性から採用されました。

「イギリス植物学の父」と知識の一般化
16世紀には、イギリス人として初めて植物の科学的な研究に取り組んだウィリアム・ターナー(1508–1568)が登場します。
彼は植物を体系的に記述した書物を、学者だけが読めるラテン語ではなく一般の人が読める形で出版しました。この一点が決定的でした。薬草の知識が専門家の独占物から庶民の生活知へと押し広げられ、家庭で使える技術に変わったのです。後世に「イギリス植物学の父」と呼ばれ、現代のハーバリストの先駆けと位置づけられています。
ヘンリー8世の「ハーバリスト憲章」
イギリスのハーブ史を大きく動かした出来事のひとつが、ヘンリー8世(1491–1547)による1518年の「ハーバリスト憲章」(Herbalist’s Charter)です。
狩りや馬上槍試合で怪我をすることも多かったこの王は、自らハーブの治療セットを持ち歩き、独自の調合まで手がけていました。その処方の記録は今も残されています。王自身がハーブの使い手だったという事実は、当時の位置づけを物語ります。
憲章は、ハーブの扱いに熟練し十分な知識を持つ者であれば、誰でもその療法を人々に提供してよいと法的に認めるものでした。当時は資格を独占しようとする動きもありましたが、この憲章によって民間の治療者が排除されずに済みました。現在のイギリスでハーバリストが職業として活動できる根拠は、この時代の権利保護にまでつながっています。
魔女狩りによる断絶
一方で、イギリスのハーブ史には深い傷も刻まれています。スコットランド出身のジェームズ1世(1566–1625)の時代、魔女狩りが激しさを増しました。
薬草を使って人を治す行為は「呪術」と混同され、ハーブを扱う者、とくに知識を持つ女性たちが嫌疑をかけられて捕らえられ、拷問を受けました。このとき処方や用法を記した貴重な書物が焼かれ、何世代にもわたって積み上げられた知識の一部が失われました。
ただし完全に途絶えたわけではありません。人々は台所や庭先でひそかにハーブを使い続け、母から娘へ、隣人から隣人へと口伝えで受け継いでいきました。書物が失われても、日々の暮らしのなかにある知識は焼けなかったのです。
ローマ教会の影響が相対的に弱かったこともあり、17世紀のイギリスはむしろ薬草学者の活躍期となり、研究が進んだ側面もあります。ニコラス・カルペパーのように、薬草書を平易な言葉で刊行し、高価な医師にかかれない人々の手に知識を渡そうとした人物も現れました。
ハーブが近代医学を支えた
薬草の研究は、近代医学と対立するどころか、その土台のひとつになりました。
よく挙げられる例が、ヤナギの樹皮に含まれる成分から生まれた解熱鎮痛薬です。ヤナギの皮を噛むと痛みが引くという民間の知恵が、成分の特定と合成へつながりました。ジギタリス由来の強心薬、キナの樹皮から得られたマラリア治療薬、ケシから得られる鎮痛薬も同じ系譜にあります。
植物の観察と経験の集積が、現代の薬理学の出発点だったと言えます。イギリスでハーブが「怪しいもの」として扱われないのは、この連続性が広く共有されているからでもあります。
歴史の流れが見えたところで、その延長線上に今も存在する職業に目を向けてみましょう。日本との違いがもっとも際立つ部分です。
メディカルハーバリストという職業
- NHSを通じてハーブが薬として支給されることはほとんどなく、専門組織の認定という枠組みで職業が成立している
- 代表的な認定機関は1864年設立の国立医療ハーバリスト協会(NIMH)で、EHTPA系の団体もある
- カリキュラムには解剖生理学、病理学、鑑別診断、薬理学、臨床実習が含まれ、医学的な水準が要求される
- 初回相談は睡眠・食事・排泄・ストレス・既往歴・服用薬まで丁寧に聞き取る
- 店頭製品はTHR(伝統的ハーブ製品登録)制度で品質と安全性が確認されている
メディカルハーバリストは、趣味の延長にある肩書きではありません。医学教育に近い課程を修めた臨床の専門職です。
国が認める資格としての位置づけ
意外に思われるかもしれませんが、イギリスでもNHSを通じて薬としてハーブが支給されることはほとんどありません。国内で使われる薬をまとめた「英国国民医薬品集」(BNF)にも、ハーブについての記載はごく限られています。
それでもハーバリストが職業として成立しているのは、専門組織の認定という枠組みがあるからです。代表的なのが国立医療ハーバリスト協会(NIMH/National Institute of Medical Herbalists)で、1864年設立という長い歴史を持ちます。ほかに欧州ハーブ・伝統医学実践者協会(EHTPA)が組織する団体もあります。認定を得るには、これらの機関が承認した学位レベルのハーブ医学課程を修了する必要があります。
カリキュラムは想像以上に医学的です。植物学や薬用植物学(ファーマコグノシー)だけでなく、解剖生理学、病理学、鑑別診断、栄養学、薬理学、そして相当な時間の臨床実習が含まれます。
実際の患者を診るクリニック実習が課されるため、英語で問診し所見をまとめる力が求められ、留学して学ぶ場合の語学的ハードルはかなり高くなります。症状の聞き取りは日常会話とは別の技能で、患者の遠回しな言い方から本題を引き出す力まで必要になるからです。大学の学部課程や、臨床トレーニングを組み込んだオンライン併用のコースで学べます。
診察はどのように行われるか
メディカルハーバリストの初回相談は、じっくり時間をかけるのが特徴です。
症状そのものだけでなく、睡眠、食事、排泄、月経の状況、ストレス、仕事や家族の環境、既往歴、服用中の薬までを丁寧に聞き取ります。日本の漢方医が体質や「証」を見立てるのに近い発想で、症状を消すことよりも症状が生まれる背景を探ろうとします。
そのうえで処方が組まれます。イギリス式ハーブ療法では複数のハーブを混ぜたチンクチャーの調合が広く使われますが、単独のハーブをそのまま用いることも一般的です。剤形はティー(浸剤)、根や樹皮を煮出す煎剤(decoction)、チンクチャー、シロップ、カプセル、外用のクリームや軟膏、湿布などから選ばれます。
数週間分を渡して経過を見て、次回の相談で調整するという流れが基本です。必要と判断されればGPや病院への受診を勧めることもあり、既存の医療と対立せず補完的に使うという姿勢が取られています。
店頭で買えるハーブ製品とTHR制度
専門家の相談を受けなくても、イギリスではハーブ製品が身近に手に入ります。
風邪など軽い症状に向けた製品は、THR(Traditional Herbal Registration/伝統的ハーブ製品登録)という制度に申請し、品質、製造管理、安全性の基準を満たすことが確認されれば店頭販売が許可されます。承認された商品にはTHRのマークが付き、消費者はそれを目印に選べます。
スーパーやブーツのような大手ドラッグストアの棚に、ハーブティーやチンクチャー、シロップが並んでいる光景はごく普通です。医療用途以外でも、ハーブは生活のあちこちに溶け込んでいます。保湿力の高い植物を使ったスキンケア、ボタニカルを効かせたジン、ハーブ入りの料理やコーディアルなど、楽しみながら取り入れられる形が豊富です。
では、その棚や処方箋に実際に登場するハーブとは、どんなものなのでしょうか。症状ごとに整理していきます。
イギリスで親しまれる代表的なハーブ
- 喉と呼吸器にはマレイン、タイム、セージ、リコリスが定番
- 風邪の入り口にはエルダーフラワー、エキナセア、ペパーミント
- 眠りと気分にはカモミール、ラベンダー、リンデン、パッションフラワー、レモンバーム
- セント・ジョーンズ・ワートは相互作用が広く知られており、自己判断で使うべきではない
- 取り入れ方は飲む・嗅ぐ・塗るの三方向に整理できる
薬局や家庭でよく登場するハーブは、症状の系統ごとにまとまっています。系統で覚えると、店頭で棚を見たときに迷いが減ります。
なお、効き方には個人差があり、妊娠中や授乳中、持病があって薬を服用している場合は使えないものもあります。以下は使われ方の紹介であり、自分に合うかどうかは専門家に確認するのが前提です。
喉と呼吸器に
マレイン(mullein)
会話で処方されたハーブ。乾いた咳や喉のイガイガ、気管支の不快感に用いられます。細かい毛が喉を刺激することがあるため、飲む前にしっかり濾すのが作法です。
タイム(thyme)
台所のスパイスとしても定番ですが、咳やのどの炎症に対してうがい液やシロップの形で使われます。発音は「タイム」で、th のあとの y が i の音になり、time と同じ響きになる点に注意してください。
セージ(sage)
喉の痛みに対するうがいに向くとされ、イギリスの家庭でもよく使われます。
リコリス(licorice、甘草)
喉をうるおし咳をやわらげる目的で配合されますが、血圧を上げる作用が知られており、長期の多用は避けるべきハーブです。
風邪の入り口に
エルダーフラワー(elderflower)
イギリス人にとって最も親しみのあるハーブのひとつ。冬の入り口、風邪の初期症状にすすめられる定番です。乾燥した花のティーとして飲むほか、柑橘と砂糖に漬け込んだコーディアル(シロップ)は夏の飲み物として広く親しまれています。花はゼリーの風味づけに、葉は水に浸して窓辺にスプレーして虫よけにも使われるなど、用途の幅が広いハーブです。
エキナセア(echinacea)
体の抵抗力を支える目的で、風邪のひきはじめに使われます。発音は「エキネイシャ」に近く、ch を「チ」と読まないのが要点です。
ペパーミント(peppermint)
鼻づまりや頭の重さ、食後の胃のもたつきに。ティーとしても精油としても使われます。
眠りと気分に
カモミール(chamomile)
寝つきの悪さや緊張、胃の不快感に。イギリスの家庭では夜のお茶として定着しています。キク科アレルギーのある人は注意が必要です。英語の発音は「カママイル」に近く、日本語の「カモミール」とはかなり違います。
ラベンダー(lavender)
香りによるリラックスが中心。ティーとしても、精油を芳香浴やバスに使う形でも親しまれます。
リンデン(linden/lime flower)
神経の高ぶりをなだめ、眠りが浅い人に向くとされます。イギリスでは lime flower という呼び方も見かけますが、柑橘のライムとは別の植物です。
パッションフラワー(passionflower)
考えごとが止まらず眠れないときに使われるハーブです。
レモンバーム(lemon balm)
気分の落ち込みや神経性の胃の不調に。育てやすく、庭のハーブとしても人気があります。
セント・ジョーンズ・ワート(St John’s wort、セイヨウオトギリソウ)
気分の落ち込みに対して伝統的に用いられてきましたが、多くの医薬品の効き方を変えてしまう相互作用がよく知られています。
セント・ジョーンズ・ワートは、経口避妊薬、抗うつ薬、抗凝固薬、免疫抑制剤、抗HIV薬などの働きに影響することが知られており、自己判断で使うべきではないハーブです。「ハーブだから薬より安全」という前提で併用すると、本来必要な薬の効果が損なわれる可能性があります。該当する薬を服用している場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
疲れ、肌、めぐりに
ネトル(nettle、イラクサ)
ミネラルを含み、季節性の鼻の不調や春の体調の切り替えに使われる定番です。
ローズヒップ(rosehip)
ビタミンCを含み、肌の調子や巡りを気にする人に選ばれます。
ローズマリー(rosemary)
気持ちを引き締めたいときや集中力が落ちたときに。日差しを浴びた日のケアにも使われます。
レモングラス(lemongrass)
疲れを感じるときのリフレッシュに向くさっぱりした風味です。
レディース・マントル(lady’s mantle)
ティーとして飲むことで、月経周期の乱れやホルモンバランスの揺れをやわらげる目的で使われます。妊娠中や便秘のときは避けます。
ゼラニウム(geranium)
精油としてむくみのケアやマッサージに用いられます。
ミルクシスル(milk thistle)
肝臓のいたわりを意識したハーブとしてイギリスでもよく見かけます。
剤形と楽しみ方
ハーブの取り入れ方は、飲む・嗅ぐ・塗るの三方向に整理できます。
ティー(浸剤/infusion)は葉や花に湯を注ぎ、蓋をして数分蒸らす方法です。蓋をするのは、香りの成分が蒸気と一緒に逃げるのを防ぐためです。根や樹皮のように硬い部分は、湯に浸すだけでは成分が出ないため煮出す煎剤(decoction)にします。
チンクチャー(tincture)はアルコールで抽出した液体で、少量を水に落として飲みます。保存性が高く、専門家の処方でよく使われる形です。持ち運びやすく、飲む量を細かく調整できるという利点もあります。
香りを使うアロマテラピーは、精油の芳香成分を吸入したり、キャリアオイルで薄めてマッサージに使う方法です。蒸気で吸い込めば呼吸器から、皮膚に塗れば経皮的に成分が取り込まれます。精油は濃度が高いため、原液を肌につけない、飲用しないという基本を守る必要があります。
外用としては、湿布や軟膏、入浴剤があります。カレンデュラのクリームは小さな傷や肌荒れに、ティートリーやミント、ラベンダーを使ったバスは炎症を落ち着かせる目的で使われます。
ここまで読むと、日本の漢方との違いが気になってくるはずです。同じ「植物を使う」療法でありながら、設計思想がかなり異なります。
ハーブと漢方、医薬品はどう違うのか
- 漢方は決まった配合の「セット」を体質や病態の見立てに応じて選ぶ体系
- イギリス式ハーブ療法は単独使用が基本で、必要に応じてその場で組み立てる柔軟さがある
- 医薬品は特定成分を高純度で使うため速く強いが、狙わない作用も出やすい
- 急性で重い症状には現代医療、はっきりした病名がつかない慢性の不調には生活を含めて整えるアプローチが向く
三者の違いは、優劣ではなく「設計の狙い」の違いです。それぞれ違う問いに答えるために作られています。
漢方は、植物の葉や茎、根に加えて鉱物や動物性の材料も含む生薬を、乾燥・煎じる・炒るなどの加工を経て、決まった配合で組み合わせて使います。処方は長い時間をかけて完成された「セット」であり、体質や病態の見立て(証)に応じて処方そのものを選びます。個々の生薬より、組み合わせ全体の働きを重視する体系です。
イギリスのハーブ療法では、精油、外用薬、シロップ、錠剤、ティーといった多様な剤形が使われ、単独のハーブを用いることが基本になります。複数を混ぜる場合も、症状に応じてその場で組み立てる柔軟さがあります。狙いは「日常にハーブを取り入れて体のバランスと抵抗力を整え、それによって不調に対抗する」という発想で、対象は主に軽度から中等度の症状です。
一方、現代の医薬品は、特定の成分を高い純度で取り出し、決まった量で決まった作用点に働かせます。効果が速く、強く、再現性が高い代わりに、狙っていない作用も出やすくなります。
ハーブは多数の成分が緩やかに複合的に働くため、効き方は穏やかですが、その分「効いているのかわかりにくい」「時間がかかる」という性質もあります。この違いを知らずにハーブに即効性を期待すると、失望して途中でやめることになります。
どちらが優れているという話ではありません。急性で重い症状には現代医療の速さと確実さが必要ですし、はっきりした病名がつかない慢性の不調や体質の傾向には、生活を含めて整えるアプローチが合うこともあります。自分の体質と症状に合った方法を見つけることが、いちばん現実的な答えになります。
ハーブを使う前に押さえておきたい注意点
- 「自然のものだから安全」という思い込みが、この分野でもっとも危険な誤解
- 医薬品との相互作用、妊娠・授乳・小児、アレルギー、手術予定の4点は必ず確認する
- 数日から数週間で変化がない、または悪化する場合は医療機関を受診する
- ハーブで様子を見続けて必要な診断が遅れるのが最大のリスク
- イギリスならTHRマーク、日本なら産地や製造管理が明示された製品を選ぶ
「自然のものだから安全」という思い込みは、ハーブ療法でもっとも危険な誤解です。NHSのサイトでも、ハーブ製品には副作用の可能性があり、正しい使い方を守ることが重要だと明記されています。
医薬品との相互作用
セント・ジョーンズ・ワートのように、薬の代謝を変えて効き方を弱めたり強めたりするハーブがあります。抗凝固薬、経口避妊薬、免疫抑制剤、抗HIV薬、抗うつ薬などを服用している人は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
妊娠中・授乳中・小児
妊娠中に避けるべきハーブは少なくありません。子どもへの使用も、量や種類に配慮が必要です。
アレルギー
キク科(カモミール、エキナセアなど)やセリ科の植物にアレルギーがある場合、反応が出ることがあります。
手術の予定
出血傾向や麻酔に影響する可能性があるハーブもあるため、手術前は使用状況を伝えます。
症状が続く・悪化する場合
数日から数週間試して変化がない、あるいは悪化する場合は、必ず医療機関を受診します。ハーブで様子を見続けることで、必要な診断が遅れるのが最大のリスクです。
品質の確認
イギリスならTHRマーク、日本なら信頼できる専門店や食品として流通しているものを選び、産地や製造管理が明示された製品を使います。
薬草園に毒草が並べられているのは、この危うさを体感させるためでもあります。ロンドンのチェルシー薬草園では、ベラドンナのように全体に毒を含む植物が、ドクロの絵と「POISONOUS DO NOT TOUCH」の小さな札だけで無防備に植えられています。
何の変わりもない見た目の植物が、用法をひとつ間違えれば人を苦しめ、命を奪うこともある。薬と毒が同じ場所から出てくるという事実を、そのまま見せる展示です。
では、同じ知識と技術を持っていたら、日本でも同じことができるのでしょうか。ここに制度の壁があります。
ハーブを処方できない日本の事情
- 日本ではハーブを処方して治療する行為は医療行為として認められていない
- 医薬品として承認されていないものを「これを飲めば治る」と伝えることは薬機法に触れる可能性がある
- 日本メディカルハーブ協会(JAMHA)などの認定資格は、治療資格ではなく生活提案型の知識資格
- 国際的に統一された「ハーブの国際資格」は存在せず、各国の機関が独自の認定制度を持つ
同じ知識と技術を持っていても、日本ではメディカルハーバリストと同じ形の職業は成り立ちません。理由は制度です。
日本では合成医薬品を中心とする医療が発達し、健康保険によって誰もが同じ水準の医療を受けられる仕組みが整いました。その結果、伝統的な漢方はむしろ少し遠い存在になっています。医療用漢方製剤が保険適用され、多くの医師が処方しているにもかかわらず、「漢方をよく知っている」と感じている人は決して多くありません。
イギリスはこれと逆の道をたどりました。GPへのアクセスがすぐには開かれず、薬局が相談の窓口として機能し続けたことで、ハーブは生活のなかに残り、人々の心と体を支える手段として使われています。
制度の違いは職業のあり方に直結します。メディカルハーバリストはイギリスでは認定の枠組みのなかで、患者の状態に合わせてハーブを治療目的で処方できます。しかし日本では、ハーブを処方して治療する行為は医療行為として認められていません。医薬品として承認されていないものを「これを飲めば治る」と伝えることは薬機法に触れる可能性があり、診断や処方は医師の業務です。
日本で学べるハーブの資格
とはいえ、日本でもハーブを体系的に学ぶ人は増えています。
日本メディカルハーブ協会(JAMHA)のメディカルハーブコーディネーター、ハーバルセラピスト、シニアハーバルセラピスト、ハーバルプラクティショナーといった認定資格、日本ハーブセラピスト協会やハーブ専門スクールの講座、アロマテラピー関連の資格などがあり、植物の成分や作用、安全性、法規制まで学べます。
これらは治療行為の資格ではありませんが、暮らしのなかでの活用法を伝えたり、ハーブティーの選び方を助言したり、講座やショップで知識を役立てることはできます。「これは薬ではないが、こういう性質がある」と正確に伝えられる人が増えることは、それ自体が安全性の向上につながります。
また、国際的に統一された「ハーブの国際資格」というものは存在せず、各国の機関や協会がそれぞれ独自の認定制度を持っています。イギリスのNIMHのように臨床を前提とする資格と、日本の生活提案型の資格は、目的も水準も別物として理解しておくとよいでしょう。
日本で流通しているハーブの種類はイギリスに比べれば限られていますが、それでもカモミール、ペパーミント、エルダーフラワー、ネトル、レモンバーム、ローズヒップ、リンデンといった主要なものは手に入ります。その範囲のなかから、自分の不調や体質に合うものを見つけていくことは十分に可能です。
ハーブ製品を選ぶときに役立つ英語表現
- パッケージの効能表示は限られた専門語の組み合わせで書かれている
- infusion/decoction/tincture の3語で剤形が読み分けられる
- expectorant、demulcent、sedative などは薬局での会話にもそのまま登場する
- 単語を疑問文に入れるだけで、店員に狙いを正確に伝えられる
イギリスや海外でハーブ製品を買うとき、パッケージに並ぶ効能表示の単語を知っておくと選びやすくなります。専門語といっても数は限られているため、覚える負担は小さいです。
- Adaptogen 体の抵抗力や適応力を支えるとされる働き
- Anti-inflammatory 炎症や腫れをやわらげる
- Antioxidant 抗酸化作用のある
- Antiseptic 殺菌・消毒の働きがある
- Carminative 胃腸のガスを排出し、お腹の張りをやわらげる
- Decoction 根や樹皮を煮出して作る煎じ薬
- Infusion 葉や花に湯を注いで蒸らす浸剤
- Tincture アルコールで抽出した液状の製剤
- Diuretic 利尿作用がある
- Expectorant 痰を出しやすくする
- Demulcent 粘膜を保護し、うるおす
- Sedative 気持ちを落ち着かせ、眠りを誘う
- Tonic 体の働きを底上げする
- Topical 外用の
これらは薬局での会話でもそのまま出てくるので、Is it an expectorant?(痰を出しやすくするものですか)や Is this for topical use only?(これは外用のみですか)のように使えます。
- フレーズ
- I’d like something demulcent for a dry throat, not a sedative.
- 日本語訳
- 乾いた喉をうるおすものが欲しいのですが、眠くなるものは避けたいです。
- 使う場面
- 日中に仕事や運転の予定があり、眠気を避けたいとき。専門語を1つ2つ混ぜるだけで、希望が正確に伝わります。
- 注意点
- 専門語を無理に多用すると、相手が「詳しい人」と判断して説明を省略してしまうことがあります。分からない部分が出たら Sorry, what does that mean?(すみません、それはどういう意味ですか)と素直に聞き返すほうが結果的に安全です。
- 発音・ニュアンス
- demulcent は「ディマルスント」で第2音節に強勢、sedative は「セダティヴ」で第1音節に強勢が来ます。I’d like は I want より柔らかく、店頭では標準的な言い方です。
語彙がそろったら、あとは口が動くかどうかです。ここからは実際に練習する手順に移ります。
発音とロールプレイの練習手順
- ハーブ名は日本語の読みと英語の発音が大きくずれるため、音を先に直す
- throat の th、herb の h、chamomile の ch が最初の関門
- ロールプレイは「症状を言う→質問に答える→確認する→礼を言う」の4手を通しで回す
- 役を交代して店員側も演じると、質問の予測ができるようになる
薬局英会話で最初に直すべきは、文法ではなく音です。単語を知っていても発音が離れていると、聞き取ってもらえずに会話が止まります。
とくにハーブ名は、日本語のカタカナ表記と英語の音が大きくずれているものが多い分野です。日本語の読みをそのまま強く言うと通じにくいため、先に音の癖を把握しておきます。
つまずきやすい音の一覧
- herb:イギリス英語は h を出して「ハーブ」に近い。アメリカ英語は h が落ちて「アーブ」
- throat:舌先を上の前歯の裏に軽く当てて息を出す。「ソート」でも通じるが「スロウト」を目指す
- chamomile:「カママイル」。日本語の「カモミール」とは別物に聞こえる
- echinacea:「エキネイシャ」。ch は「キ」の音
- thyme:「タイム」。time と同じ響きで、th は発音しない
- mullein:「マレン」。後半を弱く飲み込む
- tincture:「ティンクチャ」。語末を伸ばさない
- chronic:「クロニック」。ch は「ク」の音
- chemist:「ケミスト」。「チェミスト」にならないよう注意
- allergic:「アラージック」。第2音節に強勢が来る
- pharmacy:「ファーマシー」。ph は f の音で第1音節に強勢
3分でできる音読ドリル
次の4文を、区切りを意識して3回ずつ声に出します。区切りの位置で軽く息を置くと、それだけで聞き取られやすくなります。
- Excuse me, / do you have anything / for a sore throat?
- I’ve had it / for about three days, / and it gets worse / at night.
- I’m taking medication / for my blood pressure. / Is this safe / to take together?
- How often / should I take it, / and how long / should I continue?
この4文で、症状の申告、経過の説明、安全確認、用法確認という薬局での用件がひととおり網羅されます。この4文が口から出れば実用範囲に届きます。
ひとりでも回せるロールプレイ
相手がいなくても練習は成立します。次の手順で、自分の中に薬局を作ってしまいます。
- 症状カードを5枚作る。喉の痛み、咳、頭痛、胃の不快感、眠れない、の5つ
- 1枚引いて、I have 〜 の型で症状を言う
- 店員役として質問を出す。Do you have a temperature?/How long has it been?/Are you taking any medication? の3つを回す
- 学習者役に戻り、その質問に答える
- 最後に確認フレーズを2つ言って、Thank you. で締める
役を交代して店員側も演じるのが、この練習の要点です。どんな質問が来るか予測できるようになると、本番で聞き取れなかったときにも当たりをつけられます。
誤用が起きやすいポイント
実際の会話で頻繁に起きるずれを、正しい形と並べて確認します。
- ×I have a flu. → ○I have the flu.(イギリスでは I’ve got flu. も自然)
- ×I want a medicine for my throat. → ○Do you have anything for my throat?
- ×I am sick.(病気だと言いたい場合) → ○I’m not feeling well.(I’m sick は「吐いている」の意味にもなる)
- ×My stomach is sick. → ○I have a stomachache./My stomach hurts.
- ×It hurts my head. → ○My head hurts./I have a headache.
- ×I have pain. → ○I have a pain in my chest.(部位を添える)
- ×Is it poison? → ○Are there any side effects?(poison は「毒」で場面に合わない)
- ×I’m allergy to nuts. → ○I’m allergic to nuts.(allergy は名詞、allergic が形容詞)
体調の相談で Give me 〜 と言うのは避けてください。文法上は通じますが、命令形は要求として強く響き、相談の場では失礼に受け取られます。Could I have 〜? や Do you have 〜? を基本形にしておけば、どの場面でも角が立ちません。急いでいるときほど、この一語の差が印象を左右します。
まとめ:1週間で薬局英会話を仕上げる復習計画
- 1日15分、7日間で「症状を言う・確認する・お礼を言う」までを固める
- 初日に型、中盤に語彙とハーブ名、後半に通し練習という順が効率的
- 紙に書くよりも声に出す時間を多く取る
- 7日目に会話全体を通して録音し、聞き返して修正点を1つだけ決める
この分野は覚える量が限られているため、短期集中が向いています。1日15分を7日続けるだけで、実用の入口には立てます。
順序が大事です。語彙から始めると量に押されて挫折しやすいため、先に型を固め、あとから中身を差し替えていく流れにします。
- 1日目:4つの型(I have/I feel/部位+hurts/期間)を、それぞれ3例ずつ音読する
- 2日目:症状の名詞を10語覚える。sore throat、cough、headache、fever、rash、dizzy、blocked nose、stomachache、hay fever、insomnia
- 3日目:確認フレーズを5つ選んで暗唱する。副作用、飲み合わせ、頻度、期間、書いてもらう依頼の5点
- 4日目:ハーブ名の発音を直す。chamomile、echinacea、thyme、mullein、tincture の5語に絞る
- 5日目:効能表示の英語を読む練習。手元のハーブティーの箱やウェブの商品説明を1つ選んで読み解く
- 6日目:ロールプレイを5回回す。症状カードを引いて、通しで会話を作る
- 7日目:会話全体を録音して聞き返し、直す点を1つだけ決めて翌週に持ち越す
修正点を1つに絞るのは、あえてです。3つも4つも直そうとすると意識が分散して、どれも定着しません。一度に直すのは1つだけという制約が、かえって進みを速くします。

ひとりで型を覚えたあとは、実際に人と話して通じるかどうかを試す段階になります。体調の話は待ってくれない分野なので、口が動く状態まで持っていけると安心感が違います。
イギリスのハーブ療法と薬局英会話に関するよくある質問(FAQ)
Q. 町医者が多くないイギリスの医療事情で最も大切なポイントは何ですか?
町医者が多くないイギリスの医療事情の基本手順と注意点を押さえ、実際の日常会話や学習の中で繰り返し使うことが定着への近道です。
Q. 薬局でハーブを処方してもらう英会話で最も大切なポイントは何ですか?
薬局でハーブを処方してもらう英会話の基本手順と注意点を押さえ、実際の日常会話や学習の中で繰り返し使うことが定着への近道です。
Q. 症状を伝える英語の型は4つで足りるで最も大切なポイントは何ですか?
症状を伝える英語の型は4つで足りるの基本手順と注意点を押さえ、実際の日常会話や学習の中で繰り返し使うことが定着への近道です。

