イギリスのスーパーマーケットで、野菜売り場の奥まで進んだ瞬間に足が止まる。棚が一面、視界に入るものが全部ジャガイモ。赤い皮、白い皮、こぶし大の巨大なもの、ビー玉のように小さいもの。袋には見たこともない単語が並んでいて、結局いちばん手前の袋をつかんでレジへ向かった――そんな経験はありませんか。

そして家に帰って肉じゃがを作ったら、鍋の中で跡形もなく溶けた。あるいはポテトサラダを作ろうと茹でたのに、いくら潰してもゴリゴリして粉っぽくならない。イギリス在住の日本人が、ほぼ全員一度は通る道です。

安心してください。この失敗は、あなたの料理の腕とは関係がありません。選んだジャガイモのタイプが料理に合っていなかっただけです。しかもイギリスのジャガイモは、たった3つのタイプさえ覚えれば9割方うまく選べるようになっています。

この記事では、イギリスで流通するジャガイモの分類と代表品種、袋の表示の読み方、売り場で使える英語フレーズ、日本の家庭料理への当てはめ方までを順にたどっていきます。読み終わる頃には、あの巨大な売り場が「迷宮」から「選ぶ楽しみのある棚」に変わっているはずです。英語での買い物のやり取りをもっと自然にしたい方は、英語教室のようにネイティブと会話する場を持つと、売り場での一言が驚くほど出やすくなります。

イギリスのスーパーでジャガイモだけが並ぶ売り場の棚を前に、買い物かごを持って品種を選んでいる日本人女性
ジャガイモだけで棚が埋まるイギリスの売り場。まずはタイプを見極めることから。
目次 [ close ]
  1. 両手で収まらない種類の量
  2. イギリス人とジャガイモの歴史をたどる
  3. イギリス人が毎日食べているジャガイモ料理
  4. ジャガイモは3つのタイプに分かれる
    1. Fluffy(Floury)タイプ ― ホクホク系
    2. Waxy(Salad)タイプ ― ねっとり系
    3. Smooth タイプ ― なめらか万能系
  5. スーパーで出会う主な品種カタログ
    1. Maris Piper(マリス・パイパー)
    2. King Edward(キング・エドワード)
    3. Rooster(ルースター)
    4. Desiree(デザレイ)
    5. Charlotte(シャーロット)
    6. Jersey Royal(ジャージー・ロイヤル)
    7. Vivaldi(ヴィヴァルディ)
    8. Anya(アーニャ)
    9. Kestrel(ケストレル)
    10. Marabel(マラベル)
    11. Ayrshire(エアシャー)
    12. Cornish Kings(コーニッシュ・キングス)
    13. Purple Majesty(パープル・マジェスティ)
    14. Russet(ラセット)
    15. Apache(アパッチ)
    16. Elfe / Osprey / Lady Balfour
    17. 郷土色のある品種
  6. 品種名ではなく「総称」で売られているジャガイモ
  7. 会話で学ぶジャガイモの選び方
    1. 会話に出てきた表現を分解する
  8. 日本の家庭料理にはどのタイプを選ぶか
  9. 買い物と調理で使える英語フレーズ
    1. レシピを読むための動詞
  10. 保存と、よくある失敗の直し方
  11. ジャガイモから生まれた英語表現
  12. 発音練習と1週間の実践プラン
    1. まず声に出したい発音のポイント
    2. 1週間で3タイプを一巡させる
  13. よくある質問(FAQ)
    1. 日本の男爵芋やメークインに一番近い品種はどれですか。
    2. スーパーによって置いてある品種は違いますか。
    3. 皮は剥いたほうがいいですか。
    4. sweet potato はジャガイモの一種ですか。
    5. 品種名がなかなか覚えられません。どうすればよいですか。
    6. floury と fluffy はどう違いますか。
    7. 袋のどこを見れば買い物が早くなりますか。
    8. 新じゃがはいつ買うのがよいですか。
  14. まとめ:自分の一品に合うジャガイモを探す

両手で収まらない種類の量

この章の要点
  • イギリスで栽培されている品種は80種類以上あり、日常的に十数種類が店頭に並ぶ
  • ジャガイモは他の野菜と分けられ、独立した売り場を与えられている
  • 国民一人あたりの年間消費量は100kg超で、日本人のおよそ4倍にあたる

イギリスの売り場が日本と決定的に違うのは、選択肢の数です。日本でも男爵芋、メークイン、キタアカリ、インカのめざめ、シャドークイーンなど多様なジャガイモが手に入るようになりましたが、店頭に同時に並ぶのは指折り数えて両手で足りる程度でしょう。

ところがイギリスで栽培されている品種は80種類以上。世界全体では野生種を含めて2000〜3000種、商業栽培されているものだけでも500種を超えるといわれ、そのうち十数種類が日常的にスーパーの棚を占めています。

さらに特徴的なのが売り場の構造です。人参やブロッコリーが並ぶ生鮮コーナーとは別に、ジャガイモだけの独立した一角が設けられている。これは「ジャガイモは野菜のひとつ」ではなく「主食の売り場」だという扱いに近い発想です。

数字にも表れています。国連食糧農業機関の調査によれば、イギリス国民一人あたりの年間ジャガイモ消費量は100kgを超えます。日本人が約25kgですから、およそ4倍。米に置き換えて考えれば、これがどれほど生活と密着した食材かが想像できるはずです。

日本人の主食が米なら、イギリスの食卓を支えているのはパンとジャガイモです。朝と昼はサンドイッチで軽く済ませ、夕食では皿の中央、あるいはメインの脇にジャガイモがどっしりと鎮座する。この光景がほぼ毎日繰り返されるからこそ、品種の作り分けがここまで細かくなりました。

では、なぜイギリスでここまでジャガイモが根づいたのでしょうか。歴史をたどると、品種の多さの理由がすっと腑に落ちます。

イギリス人とジャガイモの歴史をたどる

この章の要点
  • 原産は南米アンデス地方で、16世紀後半にイギリスへ持ち込まれた
  • 当初はイングランドで敬遠され、産業革命期の都市労働者の食料需要で一気に普及した
  • 贅沢品ではなく生活必需品だったからこそ、用途別の品種改良が徹底された

ジャガイモの原産地は南米アンデス地方です。イギリスに持ち込まれたのは16世紀後半で、16世紀末にはロンドン近郊でも栽培が始まりました。

最初に熱狂的に受け入れたのはアイルランドでした。痩せた土地でもよく育ち、単位面積あたりの収穫量が穀物よりはるかに多いジャガイモは、貧しい農民の命綱になったのです。

一方、イングランドとスコットランドでは当初それほど広まりませんでした。「聖書に出てこない作物」として敬遠されたり、ナス科特有の見た目が不気味がられたりと、普及にはかなりの時間がかかっています。今の食卓の風景からは想像しにくい話です。

流れが変わったのは18世紀後半の産業革命でした。都市に労働者が流入し、安価で栄養価が高く、腹持ちのする食料が大量に必要になります。ジャガイモはこの条件をすべて満たしていました。

冷涼で湿潤なイギリスの気候と土壌にも合っていたため、栽培は爆発的に広がります。ピークだった1948年頃には、イングランドとウェールズだけで作付面積が40万ヘクタールに達したと記録されています。

つまりイギリスのジャガイモ文化は、贅沢ではなく労働と暮らしの必要から育ったものです。だからこそ品種改良が徹底的に進み、「この料理にはこの品種」という細やかな使い分けが一般家庭にまで浸透しました。

King Edward(キング・エドワード)という品種名が、1902年のエドワード7世戴冠式にちなんで名づけられたというエピソードも、この作物が国民生活の一部として扱われてきた証拠といえるでしょう。国王の名を野菜に与える文化は、そう多くありません。

歴史の次は、実際の食卓です。どんな料理に使われているかを先に押さえておくと、品種選びの理屈がぐっと飲み込みやすくなります。

イギリス人が毎日食べているジャガイモ料理

この章の要点
  • chips は太切りフライドポテト、crisps は日本でいうポテトチップスで別物
  • roast potatoes、jacket potato、mash が家庭料理の三本柱
  • 調理法が多岐にわたるため「どのジャガイモでも同じ」では済まなくなった

最も有名なのは chips(チップス)です。日本でいう太切りのフライドポテトで、フィッシュ&チップスはもちろん、卵料理にも肉料理にも豆料理にも付け合わせとして登場します。

ケチャップではなく malt vinegar(モルトビネガー、麦芽酢)を回しかけて食べるのがイギリス流。酸味と塩気で油っぽさが切れ、日本人にも意外と好まれる食べ方です。

注意点

日本でいう「ポテトチップス」を英語で chips と言うと、イギリスでは太切りのフライドポテトが出てきます。袋菓子のポテトチップスは crisps(クリスプス)です。逆にアメリカ英語では chips が袋菓子、太切りは French fries になります。イギリスのパブで “Can I have some chips?” と頼めば、必ず熱々の揚げたてが皿で運ばれてくる、と覚えておくと注文で混乱しません。

roast potatoes(ローストポテト)は日曜日の定番、サンデーローストに欠かせない一皿です。外はカリカリ、中はホクホクという対比が命で、クリスマスのランチにも必ず並びます。

jacket potato(ジャケットポテト)は、大ぶりのジャガイモを皮つきのままオーブンでじっくり焼いた料理。しっかりした皮を上着に見立てたのが名前の由来です。皮に十字の切れ目を入れ、バター、ベイクドビーンズ、チェダーチーズなどをたっぷり載せて食べます。

焼き上がりに1時間から1時間半かかりますが、金属の串を刺して熱を通りやすくすると15分ほど短縮できます。芯まで火が通ったサインは、串がすっと抜けること。急ぐあまり生焼けで出すと、あの粉を吹いた食感が出ません。

mash(マッシュポテト)はソーセージと合わせた sausage and mash が子どもの大好物。挽肉の煮込みにマッシュポテトを重ねて焼いた cottage pie、魚とホワイトソースに重ねた fish pie も家庭料理の定番です。

イギリスでは上に何かをかぶせて焼いた料理を広く pie と呼ぶため、パイ生地が一切使われていない cottage pie も堂々と pie を名乗ります。日本人が最初につまずくポイントのひとつです。

さらに wedges(皮つきのくし切りを焼いたもの)、potato salad、ジャガイモとリーク(西洋ネギ)のスープ、フランス由来の gratin dauphinois(ジャガイモのグラタン)まで。中華料理店やインド料理店のサイドメニューにチップスが置いてあることすらあります。

これだけ調理法が枝分かれしているからこそ、品種の作り分けが必要になりました。ここからが本題です。イギリスのジャガイモを支配する3つのタイプを見ていきましょう。

ジャガイモは3つのタイプに分かれる

この章の要点
  • Fluffy(Floury)はでんぷん質が多く水分が少ないホクホク系
  • Waxy はでんぷん質が少なく水分が多い、煮崩れしないねっとり系
  • Smooth はその中間で、迷ったときに買える万能型

イギリスのジャガイモは、大きく Fluffy、Waxy、Smooth の3つに分類されます。パッケージや売り場のPOPにもこの語が使われるので、覚えておくと買い物が一気に楽になります。

基本の考え方はきわめてシンプルです。でんぷん質が多く水分が少ないものが Fluffy、でんぷん質が少なく水分が多いものが Waxy、その中間が Smooth。この一行を覚えるだけで、売り場の見え方が変わります。

木のテーブルの上に粉質・中間型・ワクシー種の生ジャガイモを三つのグループに分けて並べ、それぞれ半分に切って断面の質感を見せた俯瞰写真
左から Fluffy、Smooth、Waxy。断面の質感にタイプの違いが表れます。

Fluffy(Floury)タイプ ― ホクホク系

Fluffy は「フワフワ」という意味で、加熱すると身がほろりと崩れ、粉を吹いたような状態になります。同じ意味で floury(粉っぽい)という語が使われることも多く、パッケージには floury と書かれている場合もあります。日本の男爵芋に最も近い食感です。

でんぷんが多いぶん水分が飛びやすく、揚げれば軽く仕上がり、焼けば内側がふっくらします。向いている料理は chips、roast potatoes、jacket potato、そしてマッシュポテト。ポテトスープにしてもなめらかに仕上がります。

逆に苦手なのは、長時間煮込む料理や形をきれいに残したい料理です。煮ているうちに角が取れ、最後には溶けて汁が濁ってしまいます。カレーに入れて跡形もなくなった経験がある方は、まずここを疑ってください。

代表品種は Maris Piper と King Edward。この2つはどのスーパーにも必ず置いてある、いわばイギリスの男爵芋です。

Waxy(Salad)タイプ ― ねっとり系

Waxy は「蝋のような」という意味で、その名のとおりしっとり、ややねっとりした食感です。でんぷんが少なく水分が多いため、加熱しても細胞が崩れず、切った形をきちんと保ちます。日本のメークインに近いと考えて差し支えありません。

全体的に Fluffy より小ぶりで、イギリスでは salad potatoes とも呼ばれます。イースターの頃から初夏にかけて出回る new potatoes(新じゃが)や、7〜8月が最盛期の second earlies(二番手の早生種)はこのタイプに属します。

丸ごと茹でてバターとハーブを絡めるだけ、あるいは蒸してサラダに。皮が薄いので剥かずにそのまま調理できるものが多く、皮つきのままローストしても香ばしく仕上がります。煮崩れしにくいためシチューや煮込みにも向きます。

代表品種は Charlotte、Anya、Jersey Royals。春先の売り場では、この三つの名前をよく見かけるようになります。

Smooth タイプ ― なめらか万能系

Smooth は Fluffy と Waxy の中間で、両方の性質を併せ持ちます。身がしっかりしていて茹でても崩れにくく、それでいて潰せばクリーミーになる。この「なめらかさ」が名前の由来です。

all-rounder(万能型)と表示されていることも多く、何を作るか決めていないときに買っておくと外しにくいタイプです。皮つきの wedges、ジャガイモのグラタン、そして濃厚なマッシュポテトに向いています。

代表品種は Desiree、Lady Balfour、Rooster あたり。日本の肉じゃがのように「味を含ませつつ形も残したい」料理には、この層がいちばん扱いやすいところです。

タイプが分かったら、次は個別の品種です。同じ Fluffy でも、産地や育て方によって味も食感も変わります。

スーパーで出会う主な品種カタログ

この章の要点
  • 迷ったら Maris Piper、ローストなら King Edward か Rooster
  • サラダには Charlotte、春の贅沢には Jersey Royal
  • 同じタイプでも品種ごとに甘み・香り・締まり方が異なる

お米でいえば、同じコシヒカリでも新潟産か山形産か福島産かで印象が変わるのと同じ感覚です。ここからは店頭で出会う頻度の高い品種を、特徴と向く料理とともに並べていきます。

Maris Piper(マリス・パイパー)

イギリスで最も広く栽培されている品種で、人気も知名度も断然トップ。1960年代から作られています。金色がかった皮に白い実、水分は少なめで乾いた質感が特徴です。

分類上は floury ですが、パッケージには「classic all-rounder(万能の定番)」と書かれることが多く、実際にチップス、ロースト、マッシュ、ベイクとほぼ何にでも使えます。特にチップスにしたときの軽さは折り紙つき。

クリーミーな味わいなのでスープにしてもおいしく仕上がります。迷ったらまずこれ、という選択で大きく外すことはありません。

King Edward(キング・エドワード)

1902年から栽培されている歴史ある品種。クリーム色の皮のところどころにピンクや赤の斑点が入っているのが目印です。ふっくらとした Fluffy の食感で、ローストポテトやチップスに最適とされます。

ローストを外カリカリに仕上げたいなら、皮を剥いて一口大に切り、下茹でしてから湯を切り、鍋の蓋をして数回ゆすってください。表面がわざと毛羽立ち、そこに油が絡んで格別の食感になります。

Rooster(ルースター)

深い赤色の皮に黄色い実。数々の賞を受けている万能品種で、マッシュ、茹で、蒸し、ベイクのどれもこなしますが、とりわけローストにしたときの評価が高い品種です。皮の赤が鮮やかなので、売り場でもすぐ見つかります。

Desiree(デザレイ)

1960年代にオランダで育成された品種。赤紫の皮と黄色い実で見分けやすく、イギリス全土に流通しています。やや waxy 寄りの万能型で、ねっとり感とホクホク感を併せ持つため、濃厚でクリーミーなマッシュポテトに仕上がります。グラタンやウェッジズにも好適です。

Charlotte(シャーロット)

1980年代にフランスから入ってきた、イギリスでは比較的新しい品種。細長い楕円形で、サラダポテトとしては一番人気です。味は主張しすぎず穏やかで、丸ごと茹でてサラダに加えるのが王道。皮つきのままローストしても崩れません。

Jersey Royal(ジャージー・ロイヤル)

イギリス海峡に浮かぶジャージー島でのみ栽培される、新じゃがの最高峰です。130年以上の歴史があり、島の海岸に打ち上げられた海藻を肥料に使い、急斜面の畑で植え付けから収穫までほぼ手作業で行われます。

手間がかかるぶん値段は他品種の数倍しますが、独特の甘く土の香りを含んだ風味は別格です。1997年に PDO(Protected Designation of Origin=原産地名称保護)の認定を受けており、シャンパンやパルマハムと同じように、ジャージー島以外で同じ品種を育てても Jersey Royal を名乗れません。

旬は4月から6月頃で、店頭に並ぶと春の訪れを感じる季節の風物詩になっています。食べ方はシンプルに茹でてバターとミントやパセリを絡めるのが定番です。

Vivaldi(ヴィヴァルディ)

皮が薄く淡い黄色の実。もともとバターを塗ったかのようなコクと甘みがあり、マッシュにすると絶品です。ジャケットポテトにも向き、ソースやオイルの味を吸いやすいという長所もあります。大きめの個体を選別した「Vivaldi Baking」がジャケットポテト用に売られていることもあります。

Anya(アーニャ)

細長くごつごつした見た目のワクシー種。ナッツのような独特の風味があり、茹でてサラダに入れると存在感を発揮します。形が独特なので、皮ごと使って見栄えを楽しむのが向いています。

Kestrel(ケストレル)

クリーム色の皮に青紫の芽の部分が映える美しい品種。茹でる、焼く、ローストのいずれも高水準にこなす万能型です。

Marabel(マラベル)

マッシュ用として非常に評価が高い品種。クリーミーな質感と甘みのある濃厚な風味が特徴で、シンプルなマッシュポテトの実力が分かりやすく出ます。

Ayrshire(エアシャー)

6月から9月に出回るスコットランド産で、「スコットランド版ジャージーロイヤル」と呼ばれます。土の香りと瑞々しさがあり、茹でると持ち味が生きます。

Cornish Kings(コーニッシュ・キングス)

ジャージーロイヤルの季節が終わった直後に収穫されるコーンウォール産。似た系統のナッツのような風味となめらかなワクシー食感で、皮をこすり洗いして丸ごと茹で、肉や魚に添えます。

Purple Majesty(パープル・マジェスティ)

アンデス由来の濃い紫色のジャガイモ。抗酸化成分が豊富で、独特の風味と食感を持ちます。マッシュ、ベイク、ローストで料理の彩りになります。

Russet(ラセット)

チップスやウェッジズ向きの floury 種。非常に軽くふっくらとした仕上がりになり、揚げると淡い黄色の実が美しい黄金色に変わります。

Apache(アパッチ)

赤と白がまだらに入った目を引く皮。やや waxy で、皮つきのままローストするとバターのような、栗を思わせる風味が立ちます。

Elfe / Osprey / Lady Balfour

Elfe は鮮やかな黄色でなめらか、茹で・焼き・マッシュに幅広く対応します。Osprey は皮がなめらかでベイクに強い安定型。Lady Balfour はイギリス有機農業の先駆者レディ・イブ・バルフォーにちなんだ名前で、ベイクからマッシュ、ロースト、チップス、ウェッジズまでこなす万能種です。

郷土色のある品種

スコットランド原産で黒い皮を持つ Shetland Black、皮も実も赤く、ロンドンのサヴォイホテルでブルゴーニュ公爵に供する料理の彩りに使われた歴史を持つ Highland Burgundy、スコットランドのアラン島で改良された Arran Victory なども Fluffy 系に属します。

ファーマーズマーケットに行くと、Mr Little’s Yetholm Gypsy や Kepplestone Kidney といった愛好家向けの伝統品種に出会えることもあります。品種名を眺めているだけでも、この国のジャガイモへの執着が伝わってきます。

とはいえ、これだけの名前を全部覚える必要はありません。むしろイギリスの売り場には、品種名を知らなくても選べる仕組みがあります。

品種名ではなく「総称」で売られているジャガイモ

この章の要点
  • White / Baking / Baby / Salad などの総称袋は、用途が保証されているので初心者向き
  • 袋の Baking・Boiling・Mashing・Roasting・Chipping というラベルが最短の手がかり
  • イギリスは「品種で選ぶ」より「用途で選ぶ」文化が定着している

スーパーでは品種名を出さず、用途をそのまま名前にした袋も大量に並びます。中身の品種は店や時期によって入れ替わりますが、用途は保証されているので、初心者にはむしろ選びやすい売り方です。

White Potatoes(ホワイトポテト)は、白っぽい皮と実を持つジャガイモの総称です。中身は Estima や Maris Peer などが使われることが多く、パッケージには「多目的、パイのトッピングや茹でジャガイモに」といった説明が入ります。

マッシュ・ボイル・フライ・ローストのどれにも対応する万能タイプで、日本のカレーや味噌汁の具にもよく合います。値段も手頃なので「とりあえず買っておく」用途に向いています。ホワイトと名乗っていても、実がかなり黄色いことがある点は覚えておくと驚きません。

Baking Potatoes / Jacket Potatoes(ベイキングポテト、ジャケットポテト)は、オーブンで丸ごと焼くための大きめサイズを選別した総称です。中身は Maris Piper や King Edward が多め。でんぷん質が多く、高温でも形が崩れず、外はパリッと中はホクホクという対比が出ます。

ものによっては大人のこぶし2個分ほどの大きさがあり、袋入りだと量が多すぎるためバラ売りも並んでいます。一人暮らしならバラ売りから始めるのが現実的です。

Mini Potatoes / Baby Potatoes / New Potatoes(ミニポテト、ベビーポテト、新じゃが)は小粒のジャガイモの総称で、Charlotte、Maris Peer、Jazzy といった早生種が使われます。皮が薄く甘みがあり、小さいので中まで火が通りやすい。

皮を剥く必要も切る必要もないため、サラダやローストに放り込むだけで一品になります。バターのようなコクがあると表現されることも多い、扱いやすいジャガイモです。

新じゃがは季節ごとに産地が入れ替わります。3月頃には地中海のキプロス島から輸入された Cypriot New Potatoes が並び、南キプロスの赤土で育った甘く土の香りのする味わいが楽しめます。4月に入るとジャージー・ロイヤルの季節が始まります。

Salad Potatoes(サラダポテト)は waxy 種をまとめた表示です。冷めても身が締まったままなので、ポテトサラダやニース風サラダに向きます。

売り場ではこのほかにも、袋に Baking / Boiling / Mashing / Roasting / Chipping といったラベルが印字されているものが多くあります。品種名を覚えていなくても、このラベルを頼りにすれば目的の料理に合うものが選べます。

「品種で選ぶ」より「用途で選ぶ」文化が定着している、というのがイギリスの売り場の本質です。では実際の会話では、どんなやり取りが交わされるのでしょうか。

会話で学ぶジャガイモの選び方

この章の要点
  • 「何を作りたいか」を伝えれば、相手が品種を提案してくれる
  • be good for -ing(〜に向いている)が売り場英語の核になる型
  • Could you tell me…? は近所づきあいでも使える柔らかい依頼表現
イギリスの八百屋で日本人の客がジャガイモの袋を指さして質問し、エプロン姿の店員が笑顔でジャガイモを持ちながら答えている場面
用途を伝えれば、店員も近所の人も具体的な品種を教えてくれます。

イギリスに越してきたばかりの学習者が、ご近所さんに相談する場面を想定した会話です。実際に交わすことになるやり取りに近い形で並べています。

学習者
Could you tell me the best potato for potato dishes? There are a lot of kinds of potatoes in the supermarket.
(いいジャガイモを教えてもらえませんか。スーパーマーケットにはたくさんの種類のジャガイモがあるもので。)
ご近所さん
Yes, of course. What potato dish do you want to make?
(ええ、もちろん。どのようなジャガイモ料理を作りたいのですか。)
学習者
I want to make mashed potato.
(マッシュポテトを作ろうと思っています。)
ご近所さん
Mashed potato, then it is good to choose the “fluffy” type. This potato is good for mashing and baking.
(マッシュポテトね。それでしたら「フラッフィー」の種類を選ぶといいですよ。このジャガイモはつぶしたり焼いたりするのに向いていますから。)
学習者
“Fluffy” type. I need to write it down. Is it good for potato soup?
(「フラッフィー」の種類ですね。書いておかないとだめですね。それはポテトスープにも合いますか。)
ご近所さん
Yes, it is. If you want to eat boiled potatoes, the “waxy” type is good.
(ええ、合いますよ。もし茹でたジャガイモがいいのなら「ワクシー」の種類がいいですよ。)
学習者
The kind of potato changes by the way of cooking.
(調理のしかたによってジャガイモの種類が変わるのですね。)
ご近所さん
Also, there are many kinds of potatoes in each type. I hope you can find the best potatoes for each dish.
(それに、それぞれのタイプの中にもたくさんの品種があるんです。料理ごとに一番合うジャガイモを見つけられるといいですね。)
学習者
It is like rice for Japanese. There are many types of rice in Japan. Each of us has our favourite rice. I’m looking forward to finding the best potato for every potato dish.
(日本人にとってのお米みたいですね。日本にはたくさんの種類のお米があります。各家庭でお気に入りのお米があるのですよ。それぞれのジャガイモ料理に一番合うジャガイモを見つけるのが楽しみです。)

会話に出てきた表現を分解する

Could you tell me…? は「〜を教えていただけますか」という丁寧な依頼です。Can you tell me より柔らかく、初対面や近所づきあいの場面に向いています。

What … do you want to make? は目的を尋ねる基本形。イギリスの店員も、ジャガイモを選んでいる客に “What are you making?” と声をかけてくることがあります。用途を答えれば、それに合う品種を教えてくれます。

It is good to choose … は「〜を選ぶといいですよ」という穏やかな助言。命令形の You should より角が立ちません。

be good for -ing は「〜するのに向いている」。good for mashing、good for roasting、good for boiling というように、動名詞を続けて使います。売り場のラベルでもこの形をよく見かけます。

注意点

I’m looking forward to find the best potato. と言ってしまう誤用が非常に多く見られます。look forward to の to は不定詞ではなく前置詞なので、後ろは動名詞の finding が標準です。同じ型の be used to -ing(〜に慣れている)、object to -ing(〜に反対する)もまとめて覚えると混乱しません。また favourite、flavour のように、イギリス綴りでは u が入る語がある点も意識しておくと文書作成で困りません。

表現の型が見えたところで、いよいよ日本の家庭料理への当てはめです。ここが在英日本人にとって最も実利のある部分でしょう。

日本の家庭料理にはどのタイプを選ぶか

この章の要点
  • 肉じゃがは Smooth、ポテトサラダとコロッケは Fluffy が基本線
  • カレーやシチューなど煮込み時間が長い料理は Smooth か Waxy が安全
  • まずタイプで絞り、その中で品種を試していく二段階が現実的

日本人がよく作るジャガイモ料理に3タイプを当てはめると、おおよそ次のようになります。

  • 肉じゃが → Smooth type(Desiree、Lady Balfour、Rooster など)
  • ポテトサラダ、コロッケ → Fluffy type(Maris Piper、King Edward など)
  • 粉ふき芋 → Waxy type または Fluffy type(仕上がりの好みで選択)
  • カレー、シチュー → Smooth type か Waxy type
  • 味噌汁の具 → White Potatoes で十分
  • ポテトスープ、フライドポテト、ジャーマンポテト、じゃがバター → Fluffy type

肉じゃがは煮汁を含ませながら形を残したい料理なので、崩れにくく味も入る Smooth が扱いやすいところです。もっと確実に形を保ちたいなら Charlotte のような Waxy に寄せる手もありますが、味の染み込みはやや控えめになります。

ポテトサラダとコロッケは、潰したときのほろりとした口当たりが命です。ここは迷わず Fluffy。Maris Piper や King Edward を茹でて、熱いうちに潰すのが鉄則です。

冷めてから潰すとでんぷんが糊のようになり、粘りが出て重くなります。マヨネーズを加えるのは粗熱が取れてからにすると、水っぽくならず味も締まります。

粉ふき芋については二通りの考え方があります。形を崩さずに角を立てたい人は Waxy を、日本の男爵に近い白い粉が吹く仕上がりを求める人は Fluffy を選ぶ。イギリスのジャガイモは全般に日本のものより身が締まっているので、まずは手元にあるタイプで試し、好みに応じて寄せていくのが現実的です。

カレーやシチューに入れるなら、煮込み時間が長いぶん Smooth か Waxy を選ぶと、鍋の中で溶けてしまう失敗を避けられます。逆に「溶けてとろみが出るのが好き」という人は、あえて Fluffy を選ぶという逆張りも成立します。

同じ Fluffy でも品種ごとに個性があります。産地や育て方が違えば、ホクホク感の質も甘みも変わる。お米にたとえるなら、コシヒカリの産地が新潟か山形か福島かを吟味するようなものです。

まずタイプで大きく絞り、その中で自分の得意料理に一番合う品種を探していく。この二段階の選び方が、イギリスの売り場を歩くときの基本姿勢になります。次は、その売り場で実際に口に出せるフレーズを整理していきましょう。

買い物と調理で使える英語フレーズ

この章の要点
  • variety は農産物の「品種」を指す自然な語で、kind や type より専門的に響く
  • 用途を先に伝える型を覚えれば、相手が品種を提案してくれる
  • peel、parboil、mash、roast、scrub などの動詞でレシピが読めるようになる

ここからは売り場、八百屋、キッチンで実際に使えるフレーズを、使う場面と誤用例つきで並べます。全部を一度に覚える必要はありません。まずは最初の3つを声に出してみてください。

フレーズ
Which potatoes are good for roasting?
日本語訳
ローストに向いているのはどれですか。
使う場面
八百屋やスーパーの生鮮担当者に声をかけるとき。マーケットの露店では特に歓迎される質問です。
注意点・誤用例
Which potato is good for roast? は不自然に響きます。roast は名詞だと「ロースト料理」を指すため、調理法を言うときは動名詞の roasting を使ってください。
発音・ニュアンス
ロースティングの t は軽く、「ロウスティン」に近く聞こえます。Which を強めに置くと質問の意図が伝わりやすくなります。
フレーズ
I’m looking for a floury variety.
日本語訳
粉質の品種を探しています。
使う場面
マッシュやコロッケを作る予定で、袋に floury 表示が見つからないとき。
注意点・誤用例
flowery(花のような)と発音を混同しないよう注意してください。綴りも意味も別物です。variety の代わりに kind を使っても通じますが、農産物の文脈では variety のほうが自然に響きます。
発音・ニュアンス
floury は「フラウリ」、variety は「ヴァライアティ」で ra に強勢が来ます。カタカナの「バラエティ」と強勢位置が同じです。
フレーズ
Are these waxy or floury?
日本語訳
これはワクシーですか、それとも粉質ですか。
使う場面
量り売りやマーケットで、袋の表示がない裸のジャガイモを前にしたとき。
注意点・誤用例
Is this waxy or floury? と単数で聞くと、目の前の一個だけを指す響きになります。山積みの商品全体について尋ねるときは these と複数形が自然です。
発音・ニュアンス
waxy は「ワクシ」。or の前で少し上げ、floury で下げると選択疑問文らしいイントネーションになります。
フレーズ
Do you have any Maris Piper?
日本語訳
マリス・パイパーはありますか。
使う場面
気に入った品種が決まっていて、その日は棚に見当たらないとき。
注意点・誤用例
品種名は固有名詞なので大文字で始めます。品種名は総称的に単数扱いされることが多く、Maris Pipers と複数形にする必要はありません。
発音・ニュアンス
「マリス・パイパ」。語末の r をはっきり発音しないのがイギリス英語の標準的な響きです。
フレーズ
Are these new potatoes in season now?
日本語訳
この新じゃがは今が旬ですか。
使う場面
春先にジャージー・ロイヤルなどの高価な新じゃがを買うか迷ったとき。旬の確認は値段の納得感につながります。
注意点・誤用例
in season に the は付けません。in the season とすると「その季節の中で」という別の意味になります。
発音・ニュアンス
in season はつながって「インスィーズン」と一語のように響きます。季節感を大切にする会話の入口としても機能します。
フレーズ
I’ll take a two-kilo bag, please.
日本語訳
2キロ入りの袋をひとつください。
使う場面
対面販売の八百屋やマーケットで数量を伝えるとき。
注意点・誤用例
two-kilo のようにハイフンで名詞を修飾する場合、kilo は複数形にしません。a two-kilos bag は誤りです。
発音・ニュアンス
please を最後に添えるだけで印象が大きく和らぎます。イギリスの対面買い物では、この一語の有無が想像以上に効きます。
フレーズ
Which ones hold their shape when boiled?
日本語訳
茹でても煮崩れしないのはどれですか。
使う場面
肉じゃがやカレーなど、形を残したい煮込み料理の材料を選ぶとき。
注意点・誤用例
「煮崩れする」を break と直訳すると意味がぼやけます。hold their shape(形を保つ)または fall apart(崩れる)という定型表現を使うと一発で伝わります。
発音・ニュアンス
hold their は「ホウルデア」とつながります。料理好きな相手なら、この質問から話が広がりやすい実用的な一文です。
フレーズ
Do I need to peel these, or can I leave the skins on?
日本語訳
これは皮を剥く必要がありますか、それとも皮つきのままでいいですか。
使う場面
初めて買う品種を前にしたときや、ホームパーティーで調理を手伝うとき。
注意点・注意すべき誤用
leave the skin on は「皮を付けたままにする」という固定表現です。keep the skin と言っても通じますが、料理の文脈では leave … on のほうが定着しています。
発音・ニュアンス
peel は「ピール」と長めに。or の前で軽く区切ると、二択を尋ねている意図が明確になります。

レシピを読むための動詞

英語のレシピを読めるようになると、品種選びの精度も上がります。頻出動詞を押さえておきましょう。peel(皮を剥く)、parboil(下茹でする)、mash(潰す)、roast(オーブンで焼く)、chip(棒状に切って揚げる)、scrub(皮をこすり洗いする)。

加えて dice(さいの目に切る)、quarter(4つ割りにする)、drain(湯を切る)、fluff up(表面を毛羽立たせる)も覚えておくと、ローストポテトのレシピが一気に読みやすくなります。

なお spud はジャガイモを指すくだけた言い方で、家庭内や気さくな会話でよく登場します。パブのメニューで見かけることもある、親しみのある語です。

言葉が揃ったら、あとは買ったジャガイモを無駄なく使い切る番です。

保存と、よくある失敗の直し方

この章の要点
  • 暗く涼しく風通しのよい場所が基本。透明袋のまま明所に置かない
  • 冷蔵庫保存はでんぷんが糖に変わるため原則向かない
  • 崩れすぎ・潰れなさすぎはタイプの取り違えが原因で、次回の買い物で修正できる

イギリスのジャガイモは2kg入りなど大容量の袋で売られていることが多く、買ってから使い切るまでに日数がかかります。保存は暗く、風通しがよく、涼しい場所が基本です。

注意点

光に当たると皮が緑化し、有毒なソラニンが増えます。透明な袋のまま明るいキッチンに置くのは避け、紙袋や布袋に移し替えてください。緑色に変わった部分や芽が出た部分は、加熱しても分解されないため、厚めに削り取るか、広範囲に及ぶ場合は食べずに処分するのが安全です。特に小さなお子さんがいる家庭では慎重に判断してください。

冷蔵庫での保存は原則として向きません。低温ででんぷんが糖に変わり、揚げたときに焦げやすく、味も甘ったるくなります。玉ねぎと一緒に保管すると互いの発芽を早めるので、離して置くのが無難です。

失敗としてよく聞かれるのが、茹でたら跡形もなく崩れた、あるいはいくら茹でても潰れない、という両極端のパターンです。前者は Fluffy を煮込みに使った場合、後者は Waxy をマッシュに使った場合に起こります。

タイプを取り違えているだけなので、次の買い物で修正すれば済みます。腕の問題ではありません。

Waxy をどうしてもマッシュにしたい場合は、フードプロセッサーを使わないことが重要です。細胞が壊れてでんぷんが出すぎ、餅のような粘りになります。網目の細かい裏ごし器かポテトライサーを使い、必要以上に混ぜないのが要点です。

逆に Fluffy を煮込みに使いたいときは、切り分けを大きめにして、煮込みの後半に加えるだけでかなり改善します。面取りをしておくと角から崩れるのを防げます。

食材としての付き合い方が見えてきたところで、今度は言葉の側面に目を向けてみましょう。ジャガイモは英語表現の中にも深く入り込んでいます。

ジャガイモから生まれた英語表現

この章の要点
  • a hot potato は「誰も引き受けたがらない厄介な問題」
  • meat and potatoes は「本質、最も重要な部分」
  • potato-head など相手に向けると失礼になる語もある

食卓に深く根づいた食材だけに、ジャガイモを使った言い回しも豊富です。会話に混ぜられると、ぐっとこなれた印象になります。

couch potato はソファに寝そべってテレビばかり見ている人。日本語でもそのまま通じるほど広まりました。

a hot potato は「厄介な問題」。熱々のジャガイモは手に持っていられないことから、誰も引き受けたがらない案件を指します。drop someone like a hot potato といえば、急に見放す、手のひらを返すという意味になります。

small potatoes は「取るに足りないもの」。That’s small potatoes. で「そんなの大した話じゃない」というニュアンスです。

meat and potatoes は「最も重要な部分、本質」。the meat and potatoes of the issue といえば問題の核心を指します。会議やレポートでも使える便利な表現です。

注意点

potato-head は間の抜けた人を指す、かなり失礼な言い方です。親しい間柄の冗談としてなら通じることもありますが、学習者が職場や初対面の相手に使うと関係を損ないます。同様に couch potato も、他人に向けて言えば「怠け者」という批判になります。自分について自嘲的に使う分には角が立ちません。

こうした表現が定着していること自体が、この作物が言語の層にまで染み込んでいる証拠といえます。では、覚えた内容をどう定着させればよいのでしょうか。

発音練習と1週間の実践プラン

この章の要点
  • 品種名は強勢の位置を意識するだけで通じやすさが変わる
  • 1週間で3タイプを一巡させると体感で違いが分かる
  • 買った袋の品種名と感想をメモに残すのが最短の近道

まず声に出したい発音のポイント

potato は「ポテイトウ」で、真ん中の tei に強勢が来ます。日本語の「ポテト」のように平坦に読むと通じにくいので、二音節目を高く長く伸ばしてください。

Maris Piper は「マリス・パイパ」、King Edward は「キング・エドワド」、Desiree は「デザレイ」でレイに強勢、Charlotte は「シャーロット」ではなく「シャーラット」に近い響きになります。Jersey Royal は「ジャーズィ・ロイアル」。

floury と waxy はどちらも第一音節に強勢。「フラウリ」「ワクシ」と短く切るように言うと、売り場で聞き返されにくくなります。

練習は、袋を手に取りながら品種名を小声で読み上げるだけで十分です。実物と音を結びつけると、記憶の定着が段違いになります。

1週間で3タイプを一巡させる

知識として読むより、手を動かしたほうが早く身につきます。次の流れなら、1週間で三つのタイプを体感できます。

  1. 1日目:Maris Piper(Fluffy)を買い、半分をマッシュ、半分を素揚げにして食感の軽さを確かめる
  2. 2日目:残りの Maris Piper でジャケットポテトを焼き、皮のパリッと感を体験する
  3. 3日目:Charlotte など Salad Potatoes(Waxy)を買い、丸ごと茹でてバターとハーブで食べる
  4. 4日目:同じ Waxy を薄切りにして味噌汁か煮物に入れ、形が残ることを確認する
  5. 5日目:Desiree など Smooth を買い、肉じゃがを作って味の染み込みと形の残り方を見る
  6. 6日目:同じ Smooth でウェッジズを焼き、万能型の幅を実感する
  7. 7日目:いちばん気に入ったタイプでもう一度作り、品種名を控えておく

この一巡が終わる頃には、袋の表示を見た瞬間に「今日の献立に合うかどうか」が判断できるようになっているはずです。同時に、売り場で使った英語フレーズも自然と口に馴染んできます。

記録の付け方はシンプルで構いません。品種名、店名、値段、作った料理、家族の反応。この5項目をメモアプリに一行ずつ残すだけで、半年後には自分専用のジャガイモ辞典ができあがります。

夕方のキッチンでジャガイモの下ごしらえをしながら、まな板の脇に開いたノートに品種の感想を書き留めている様子
品種名と感想を一行残すだけで、次の買い物が楽になります。

売り場で質問できるようになると、買い物そのものが英語の練習時間に変わります。地元の人と交わす一言のやり取りを増やしたい方は、会話の量を確保できる場を持っておくと定着が早まります。

よくある質問(FAQ)

この章の要点
  • 男爵芋に近いのは Maris Piper や King Edward、メークインに近いのは Charlotte
  • 店によって品揃えも表示方法も異なる
  • 品種名を覚えなくても、用途表示だけで十分に選べる

日本の男爵芋やメークインに一番近い品種はどれですか。

男爵芋に近いのは Maris Piper か King Edward、メークインに近いのは Charlotte です。この2系統を軸に考えれば、日本の家庭料理はほぼ再現できます。イギリスのジャガイモは全般に身が締まっているため、日本で作るときより少し長めに加熱すると狙った食感に近づきます。

スーパーによって置いてある品種は違いますか。

違います。Tesco、Sainsbury’s、Waitrose、Aldi などで品揃えも価格帯も異なり、季節によっても入れ替わります。Waitrose や Marks & Spencer は品種名を明記した袋が多く、ディスカウント系は総称表示が中心になる傾向があります。品種名で選びたい日と、用途表示で手早く選びたい日で、行く店を変えるという使い分けも有効です。

皮は剥いたほうがいいですか。

新じゃがやベビーポテトは皮が薄く、剥かずに使うのが一般的です。ローストやウェッジズも皮つきのほうが香ばしく仕上がります。マッシュやコロッケなど、なめらかさを求める料理では剥いてください。いずれの場合も、緑色になっている部分や芽は必ず取り除きます。

sweet potato はジャガイモの一種ですか。

植物としては別物で、日本のさつまいもに近い食材です。イギリスのスーパーではジャガイモコーナーに並んでいることが多く、ベイクやスープ、フライに使われます。トースターで焼けば焼き芋に近い味が楽しめます。fluffy や waxy といった分類は当てはまらないので、通常のジャガイモとは別枠で考えてください。

品種名がなかなか覚えられません。どうすればよいですか。

無理に覚える必要はありません。袋に書かれた floury / waxy / all-rounder の表示と、roasting / mashing / boiling といった用途表示を見れば十分に選べます。慣れてきたら、気に入った袋の品種名だけを写真に撮って残しておく方法が手軽です。3つか4つ覚えた時点で、日常の献立はほぼカバーできます。

floury と fluffy はどう違いますか。

指している中身はほぼ同じで、でんぷん質が多く加熱すると崩れやすいタイプを表します。floury は「粉っぽい」という性質そのものを、fluffy は「ふんわりした」という仕上がりの食感を強調した言い方です。売り場ではどちらの表記も見かけますが、同じグループだと考えて問題ありません。

袋のどこを見れば買い物が早くなりますか。

まず表面の大きな文字で floury / waxy / all-rounder を確認し、次に Baking、Boiling、Mashing、Roasting、Chipping といった用途ラベルを見ます。この2か所だけで、その日の献立に合うかどうかは判断できます。品種名は裏面や側面に小さく書かれていることが多いので、余裕があるときに確認すれば十分です。

新じゃがはいつ買うのがよいですか。

3月頃にキプロス産の Cypriot New Potatoes が並び始め、4月から6月頃にジャージー・ロイヤルの旬を迎えます。6月から9月にはスコットランド産の Ayrshire も出回ります。値段は通常の品種より高めですが、茹でてバターとハーブを絡めるだけで持ち味が出るので、季節を感じたいときに少量買うのが向いています。

まとめ:自分の一品に合うジャガイモを探す

この章の要点
  • タイプを決めた後も、品種ごとの個性を試す楽しみが残っている
  • 得意料理を一つ決めて袋を替えながら比べるのが上達の近道
  • 売り場は迷宮ではなく、選ぶ楽しみのある棚に変わる

3つのタイプに分かれたジャガイモは、タイプを決めた後もまだ選択が続きます。Fluffy の中だけでも枝分かれした品種が並び、産地や育て方によって、同じ Fluffy でも別の顔を見せるからです。

これは面倒というより、楽しみと捉えたほうが得です。得意料理を一つ決めて、袋を替えながら作ってみる。それだけで、売り場を歩く時間が実験の時間に変わります。

マッシュポテトなら Maris Piper と Vivaldi と Marabel を順に試し、家族の反応を見る。ローストなら King Edward と Rooster を焼き比べる。サラダなら Charlotte と Anya のどちらが好みかを確かめる。

そうして半年もすれば、「うちのコロッケはこれ」と言える一袋が決まってきます。そのときには、袋の英語表示も、店員への質問も、自然に口をついて出るようになっているはずです。

各家庭にお気に入りのお米があるように、イギリスの家庭にはお気に入りのジャガイモがあります。その感覚を掴んだとき、あの巨大なジャガイモ売り場は迷宮ではなく、選ぶ楽しみのある棚に変わっているでしょう。

次にスーパーへ行ったら、まずは袋の表示を一つだけ確かめてみてください。floury なのか waxy なのか。その一手間が、今日の夕食を確実に変えてくれます。

それではまた、See you!