ピアノの前で最初に口ずさむのも、リコーダーの指を数えるときに唱えるのも「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」。あまりに生活に溶け込んでいるので、これが日本語なのか英語なのか、考えたことすらないという人は少なくありません。
この記事では、ドレミの正体と英語音名の対応、なぜドがAではなくCなのかという由来、ドイツ語・日本語音名とのずれ、そして演奏中にとっさに思い出せる覚え方の手順までを一気に整理します。
読み終えたときには、コード譜のアルファベットが「知らない記号」ではなく「読める名前」に変わっているはずです。音楽の話題を英語で楽しめるようになりたい方は、英語教室のようにネイティブと会話しながら練習できる場を併用すると、覚えた語彙がそのまま使える形で定着していきます。
「ドレミ」の正体はイタリア語、英語はC・D・E・F・G・A・B
ところが海外の音楽仲間と話したり、ギターのコード譜を開いたりすると、突然「C」「D」「E」というアルファベットが現れます。あの慣れ親しんだドレミは、いったいどこへ行ってしまったのでしょうか。
まずは、いちばん気になる答えから確かめていきましょう。
- ドレミファソラシドはイタリア語由来の音名で、英語ではない
- 英語の音名はアルファベットのC・D・E・F・G・A・Bを使う
- 同じ高さの音に、イタリア語・英語・ドイツ語・日本語で別々の名前が付いている
- ドレミは11世紀のラテン語聖歌の歌い出しの文字から生まれた
先に答えを言うと、ドレミファソラシドはイタリア語です。英語で音の名前を言うときは、アルファベットを使って「C・D・E・F・G・A・B」と表します。
理由は単純で、音に名前を付ける方法が地域ごとに別々に発達したからです。イタリア語圏では歌詞の文字を音名に転用し、ヨーロッパの記譜の伝統ではアルファベットを順番に割り当てました。どちらかが正解というわけではなく、同じ音に複数の名札が貼られている状態だと考えると理解しやすくなります。
対応を表にすると、ずれている箇所が一目でわかります。
| 言語 | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| イタリア語 | Do | Re | Mi | Fa | Sol | La | Si |
| 英語 | C | D | E | F | G | A | B |
| ドイツ語 | C | D | E | F | G | A | H |
| 日本語 | ハ | ニ | ホ | ヘ | ト | イ | ロ |
この表でずれているのは、ドイツ語の「シ」がHになっている一点だけです。あとは英語とドイツ語が同じ文字を共有しているため、まずは英語の並びを軸にして、そこから差分を覚えるのが効率的です。
つまり「ドレミは英語か」という問いへの答えは、はっきり「いいえ」。英語で音の名前を伝えたいときは、アルファベット7文字が出番になります。

ドレミはラテン語の聖歌から生まれた
では、なぜイタリア語の音名は「ドレミ」という不思議な響きなのでしょうか。由来は11世紀にさかのぼります。修道士グイード・ダレッツォが、聖ヨハネを讃えるラテン語の聖歌を教材として使ったことが出発点です。
この聖歌は、各フレーズの歌い出しが一音ずつ階段状に上がっていく構造になっていました。歌い出しの音がそのまま音の高さの見本になる、よくできた教材だったわけです。
Ut queant laxis / Resonare fibris / Mira gestorum / Famuli tuorum / Solve polluti / Labii reatum / Sancte Iohannes
各節の頭の文字を拾うと、Ut・Re・Mi・Fa・Sol・La。これがそのまま音の名前として定着しました。最初のUtは母音で終わらず歌いにくいため、のちにDoへ置き換えられています。
7番目のSiは、最後の行のSancte Iohannesの頭文字を組み合わせて後から追加されたものです。ドレミは歌詞の頭文字から生まれた名前だと知ると、あの独特な語感にも納得がいきます。
英語音名の読み方をカタカナで確認する
英語音名はアルファベットをそのまま読むだけなので、読み方で迷うことはほとんどありません。ただし日本語の会話に混ぜて使うときの慣習的な読みは押さえておくと安心です。
| 英語音名 | 日本での読み | 対応するドレミ |
|---|---|---|
| C | シー | ド |
| D | ディー | レ |
| E | イー | ミ |
| F | エフ | ファ |
| G | ジー | ソ |
| A | エー | ラ |
| B | ビー | シ |
英語の会話では、アルファベットの発音がそのまま音名になります。Aは「エイ」、Eは「イー」、Gは「ジー」。日本語の会話で「エー管」「ツェー」と言うときはドイツ語読みが混ざっているので、相手がどの言語で話しているかを意識すると混乱が減ります。
対応表が頭に入ったところで、多くの人が最初につまずく疑問に進みます。なぜ、ドはAではなくCなのでしょうか。
なぜドはAではなくCから始まるのか
- アルファベットで音を表す方法はドレミより古く、起点は「ラ」だった
- 中世の音楽はラから始まる音階が中心だったため、ラにAが割り当てられた
- のちに長音階が主流になり「ド」が主役になったが、文字の割り当ては変わらなかった
- ラ=Aを軸にすると、A・B・C・D・E・F・Gが例外なく並ぶ
英語表記を初めて見たとき、多くの人が引っかかるのが「ドがAではなくCから始まる」という点です。素直に考えればド=Aのほうが気持ちよく並ぶはずなのに、なぜねじれているのでしょうか。
理由は、アルファベット音名のほうが歴史が古いことにあります。しかも当時の基準に置かれた音は、ドではなくラでした。
中世ヨーロッパでは、現在のラの音を起点にA・B・C…と順番に名前が振られていました。当時の音楽は今でいうラから始まる音階が中心で、ラを出発点にするのが自然だったのです。
その後、時代が下るにつれて明るい響きの長音階が音楽の中心になり、白鍵だけで長音階が作れる「ド」の音が主役の座に就きました。しかしアルファベットの割り当ては昔のまま残り、ド=C、ラ=Aというずれが固定されました。
「ラ=A」を軸にすると一気に腑に落ちる
覚え方としては、ド=Cから数えようとしないのがポイントです。ラから数えれば A・B・C・D・E・F・G と、何の例外もなく並びます。
具体的には、ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソと歌いながら、指でA・B・C・D・E・F・Gと数えてみてください。ドから数えるとC・D・E・F・G・A・Bと文字が途中で先頭に戻るので、記憶の負荷が上がります。出発点を変えるだけで、暗記のつらさが半分になります。
チューニングで使う基準音がA、つまり440Hz前後のラであることも、この歴史の名残です。オーケストラの調弦でオーボエが出す音、ギターの5弦の開放、チューナーのA表示。どれもラが基準として生き続けている証拠です。
つまり「ドがAじゃないのは変」ではなく、「ラがAなのは筋が通っている」というのが実態です。この視点を持っておくと、次に出てくる英語圏のソルフェージュの話もすっと入ってきます。
英語圏でも「ドレミ」は歌われている(ただし7番目はTi)
- 英語圏でも歌うための音名(ソルフェージュ)としてDo, Re, Miが使われる
- 7番目はSiではなくTiで、Solとの頭文字の重複を避けたもの
- ソの綴りはSolとSoの両方が使われ、どちらも同じ音を指す
- 「英語圏にドレミはない」という理解は誤り
ドレミが英語でないと知ると、「では英語圏の子どもはドレミを歌わないのか」と思うかもしれません。実際は逆で、英語圏でもドレミはしっかり歌われています。ただし綴りと発音が少し違います。
Do, Re, Mi, Fa, Sol(So), La, Ti という並びが英語圏の標準です。7番目がSiではなくTiになっているのが最大の違いです。
理由は指導上の都合でした。19世紀のイギリスで、音名の頭文字が重複しないように整理する指導法が広まり、SolとSiが同じSで始まって紛らわしいため、SiをTiに変えたのです。頭文字だけで書き取る練習をするとき、d・r・m・f・s・l・tと一文字ずつ別になる利点があります。
日本で「シ」と歌っているところを、英語圏の子どもは「ティ」と歌っている。海外の子ども向け教材で「Ti」を見かけても誤植ではないと知っておけば、驚かずに済みます。
あの有名な歌の英語原詞に仕掛けがある
日本人が「ドレミ」を知っている大きな理由は、幼い頃に「ドレミの歌」を覚えるからです。映画「サウンド・オブ・ミュージック」は世界的にヒットし、劇中歌はさまざまな国の子どもが音楽に触れる入り口になりました。
英語の原詞では、Doe(雌鹿)、Ray(光の筋)、Me(私)、Far(遠く)、Sew(縫う)、La、Tea(お茶)と、同じ響きの英単語に置き換えて音名を覚えさせる仕掛けになっています。日本語版の「ドはドーナツのド」も、まったく同じ発想の訳詞です。
この作品は英語の映画ですから、歌われている「ドレミ」も英語だと感じてしまいがちです。しかし音名そのものはイタリア語由来。ここに勘違いが生まれる土壌があります。
さらに興味深いのは、主人公がギターを抱えて子どもたちに歌を教える場面です。ギターの譜面で弦を押さえる位置を示すのは、ドレミではなくC・D・Eという英語の音名。一本の映画のなかで、イタリア語の音名と英語の音名が同時に使われていることになります。
この「歌う名前」と「名札としての名前」の違いは、次の章で扱う音名と階名の区別につながります。ここを押さえると、レッスンでの会話が噛み合わなくなる原因が見えてきます。
音名と階名——固定ドと移動ドの違い
- 音名は絶対的な高さに付いた名札で、何調でもCはC(固定ド)
- 階名は調の主音を基準にした相対的な呼び方で、調が変われば移動する(移動ド)
- 英語圏ではDo, Re, Miが階名、C, D, Eが音名として役割分担している
- 日本では両方をカタカナのドレミで言うため、話が噛み合わなくなりやすい
英語音名を学ぶうえで避けて通れないのが、音の呼び方には二種類あるという事実です。ここを混ぜてしまうと、対応表を覚えても現場で混乱します。
ひとつは音名です。これは絶対的な高さに付けられた名前で、ピアノの鍵盤ひとつひとつに貼られたラベルのようなもの。Cは何調の曲であってもCです。この考え方を「固定ド」と呼びます。
もうひとつは階名です。こちらはある調の主音を基準にした相対的な名前で、ト長調ならソの音が「ド」になり、そこから順にレ・ミ…と数えます。調が変われば呼び名も移動するので「移動ド」と呼ばれます。
たとえばト長調の曲を移動ドで歌うと、Gの音を「ド」と呼びます。同じ譜面を固定ドで読む人は、その音を「ソ」と呼ぶ。どちらも間違いではなく、立場が違うだけです。
英語圏では階名としてのソルフェージュ(Do, Re, Mi…)と、音名としてのアルファベット(C, D, E…)がきれいに役割分担しています。日本ではどちらもカタカナの「ドレミ」で言ってしまうため、学校の音楽と楽器のレッスンで話が食い違うことがあるのです。
「ド=C」という対応は、あくまで音名(固定ド)の話です。移動ドで考える場面では、ト長調の「ド」はGの音を指します。レッスンや合奏で話が合わないときは、相手が固定ドと移動ドのどちらで話しているかを先に確認してください。この一言で、無用な言い争いの大半は解消します。
アルファベット表記に慣れておくと、この混乱は自然に解消されます。では、その7文字をどう身体に入れていけばよいのでしょうか。
英語音名を無理なく身につける手順
- 7つを丸暗記せず、C・F・G・Aの4つを土台にする
- 残る3つは隣の音から推理する(D=Cの次、E=Fの前、B=Aの次)
- 鍵盤の黒鍵のかたまりを目印にすると、探す時間が短くなる
- ドレミで歌いながらアルファベットを重ねて唱えると変換が速くなる
7つを一度に丸暗記しようとすると、演奏中にとっさに出てきません。目指すべきは、少ない手がかりから芋づる式に思い出せる状態です。
ステップ1:C・F・G・Aの4つを土台にする
まず、C=ドとF=ファの2つだけを確実にします。FはFaの頭文字と同じなので結びつけやすいはずです。次に、アルファベットの並びの終わりと始まりを押さえます。G=ソは音名として使うアルファベットの最後、A=ラは最初です。
この4つ、C・F・G・Aが土台になります。ここだけは反射的に出るまで繰り返しておくと、あとが楽になります。
ステップ2:残る3つは隣から推理する
残る3つは、となりの音から推理すれば済みます。D=レはCの次、E=ミはFの前、B=シはAの次。Gの次はHではなくAに戻る、という循環も一緒に覚えておきましょう。
「7つ覚える」より「4つ覚えて3つ推理する」ほうが、記憶の引き出しとしてはに開けやすくなります。推理の手順そのものが練習になるので、使うたびに定着していきます。
ステップ3:鍵盤の見た目と結びつける
ピアノの鍵盤で言えば、黒鍵が2つ並んだかたまりのすぐ左がC、黒鍵が3つ並んだかたまりのすぐ左がFです。この視覚的な手がかりと結びつけると、音を探す時間が一気に短くなります。
ギターなら、5弦の開放がA、6弦の開放がE。ウクレレなら4弦からG・C・E・Aです。自分の楽器の開放弦や基準音がどの文字かを把握しておくと、英語音名が「知識」から「身体の位置」に変わります。
ステップ4:ドレミとアルファベットを二重に唱える
慣れてきたら、ドレミで歌いながら頭のなかでアルファベットを重ねる練習が効きます。音階を上がるときに「ド(C)レ(D)ミ(E)…」と二重に唱えるだけでも、変換のスピードは目に見えて上がります。
さらに一歩進めるなら、下がる方向でも唱えてみてください。「ド(C)シ(B)ラ(A)ソ(G)…」と逆から言えるようになると、コード譜を上下に読むときの迷いが消えます。
7文字が入ったら、次は記号が付いた音です。シャープとフラットの言い方は、言語ごとの個性がもっともはっきり出るところです。
シャープ・フラットは各言語でどう言うか
- 英語は音名のうしろにsharp / flatを足すだけで済む
- イタリア語はdiesis(♯)とbemolle(♭)、重なるとdoppioを添える
- ドイツ語は♯に-is、♭に-esを付け、EsやAsのように縮む例がある
- 日本語は♯が「嬰」、♭が「変」で、調名として今も使われている
臨時記号が付くと、言語ごとの違いがさらにはっきりします。英語はいちばん単純で、音名のうしろにsharpかflatを足すだけです。
| 言語 | ♯が付いた音 | ♭が付いた音 |
|---|---|---|
| イタリア語 | Do diesis(ディエシス) | Do bemolle(ベモッレ) |
| 英語 | C sharp | C flat |
| ドイツ語 | Cis(ツィス) | Ces(ツェス) |
| 日本語 | 嬰ハ(えいハ) | 変ハ(へんハ) |
英語で読むときは文字どおり「シー・シャープ」「ビー・フラット」。ダブルシャープはdouble sharp、ダブルフラットはdouble flat、♮はnaturalです。表記はC♯やB♭のように記号を後ろに置きます。
イタリア語はdiesisとbemolleを使い、二重になる場合はdoppio(ドッピオ)を添えます。日本語は♯が「嬰」、♭が「変」、2つ重なると「重嬰」「重変」。「変ホ長調」「嬰ヘ短調」といった調名で耳にするあの言葉です。
ドイツ語は♯に-is、♭に-esを付けるルールで、Cis, Dis, Eis, Fis, Gis, Ais, His、Ces, Des, Es, Fes, Ges, Asと変化します。母音が重ならないようE+esがEs、A+esがAsと縮まる点に注意が必要です。
吹奏楽で耳にする「ベー管」「エス管」も、このドイツ語の読みから来ています。そのドイツ語音名には、英語に慣れた人が必ず一度はつまずく大きな落とし穴があります。
ドイツ語音名の落とし穴「H」と「B」
- ドイツ語では「シ」がH(ハー)になる
- ドイツ語のBは英語のB(シ)ではなく、シのフラット(変ロ)を指す
- ドイツ語圏の楽譜で「Hm」は英語圏のBmと同じ和音
- 中世の記譜法で、丸いbと角ばったbの二種類があったことに由来する
ドイツ語の音名は英語とよく似ていますが、シの音だけがHになります。読み方は「ツェー・デー・エー・エフ・ゲー・アー・ハー」。呪文のように何度か唱えると、意外にすんなり身体に入ります。
いちばん気をつけたいのは、ドイツ語のBはシのフラットを指すという点です。英語のBとは半音ずれているので、ここを取り違えると響きが濁ります。
ドイツ語圏の楽譜でコードに「Hm」と書いてあれば、それはシのマイナーコード、英語圏で言うBmのことです。逆に「B」とあればB♭を意味します。英語の譜面とドイツ語の指示が混ざる現場では、ここが最大の事故ポイントになります。少しでも迷ったら、音を出して確認するのが安全です。
このずれは中世の記譜法に由来します。当時、シの音には丸みを帯びた柔らかいb(半音低い音)と、角ばった硬いb(現在のシ)の二種類の書き方があり、角ばったほうの字形がやがてドイツ語圏でhと読まれるようになったのです。
読み方の交差にも注意しましょう。英語のEは「イー」、ドイツ語のEは「エー」、そしてドイツ語のAは「アー」。吹奏楽やオーケストラに入りたての頃は、誰もが一度は混乱します。
トランペットやクラリネットでドイツ語の音名が飛び交うのも、こうした背景があるからです。これらは移調楽器で、たとえばB♭管の楽器は「ベー管」と呼ばれます。同じ文字を使いながら読みだけが違うので、耳が慣れるまでに少し時間がかかります。
ここまで来ると、残るは日本語音名です。日常では使わないと思われがちですが、実は今も現役で活躍している場面があります。
日本語音名「ハニホヘト」はどこで使われているか
- 日本語音名はいろは歌の並び順を使い、基準はやはり「ラ」(イ=ラ)
- ハ=ド、ニ=レ、ホ=ミ、ヘ=ファ、ト=ソ、イ=ラ、ロ=シ
- 演奏中に使う場面は少ないが、調名としては今も現役
- ハ長調=C major、イ短調=A minor、変ロ長調=B♭ major
日本にも日本語の音名があります。「ハニホヘト…」とイロハで読むあれです。音楽の授業で「変ホ長調」や「嬰ヘ短調」という言葉に出会い、よくわからないまま通り過ぎた記憶がある人も多いでしょう。
日本語音名はいろは歌の並び順を使ったもので、こちらも基準はラの音です。イ=ラ、ロ=シ、ハ=ド、ニ=レ、ホ=ミ、ヘ=ファ、ト=ソ。英語がA=ラから始まるのとまったく同じ発想で並んでいます。
日常の演奏でハニホヘトを口にする場面はほとんどありませんが、調名だけは今も現役です。対応を押さえると、教科書やクラシックの曲名表記がぐっと読みやすくなります。
| 日本語の調名 | 英語表記 | 主音のドレミ |
|---|---|---|
| ハ長調 | C major | ド |
| ト長調 | G major | ソ |
| イ短調 | A minor | ラ |
| 変ロ長調 | B♭ major | シのフラット |
| 変ホ長調 | E♭ major | ミのフラット |
| 嬰ヘ短調 | F♯ minor | ファのシャープ |
日本語の音名は世界ではほとんど使われませんが、日本人として知っておいて損はありません。海外で音楽の話題が出たときに「日本には漢字を使った独自の音名がある」と紹介すれば、話題としても盛り上がります。
四種類の名前が出そろいました。では実際の現場で、どの言語がどこで使われているのでしょうか。
楽器とジャンルで使い分けられている
- 学校の音楽やリコーダー・ピアノの初歩ではドレミ
- ギター・ベース・ウクレレ、ポピュラー音楽やジャズでは英語音名が標準
- クラシックのオーケストラや吹奏楽ではドイツ語音名がよく飛び交う
- 調名を言うときは日本語音名が使われる
音名の使い分けは、地域というより楽器とジャンルで決まるのが実情です。整理すると、迷いどころがはっきり見えてきます。
学校の音楽の授業や、リコーダー・鍵盤ハーモニカ・ピアノの初歩では、五線譜を読むためにドレミが使われます。音の高さを歌いながら覚えるのに向いているからです。
一方、ギター、ベース、ウクレレ、ポピュラー音楽やジャズの現場では英語音名が標準です。コードネームがすべてアルファベットで書かれているためで、コードを学ぶことはほぼイコールで英語音名を学ぶことになります。
バンドで「次はGからね」と言われたとき、頭のなかで「ソ」に変換していては間に合いません。だからこそ、英語音名を反射で出せる状態にしておく価値があります。
クラシックのオーケストラや吹奏楽では、ドイツ語音名がよく飛び交います。指揮者が「ツェーの音が高い」と言えばCの音のこと。合奏のチューニングで「アー」と言われたらラの音です。
そして調名を口にするときは日本語音名。同じ曲について話しているのに、四種類の呼び名が入り混じることも珍しくありません。対応表が頭に入っているかどうかで、理解の速さがはっきり変わります。
そこで次は、英語音名に慣れるいちばん実践的な入り口、コードネームの読み方に進みます。
コードネームを英語で読む
- Cは「シーメジャー」または単に「シー」、Cmは「シーマイナー」
- C/Eは「C over E」と読み、ベース音がEであることを示す
- 長調はmajor、短調はminor。ドイツ語ではdurとmoll
- コード進行は音名を並べるだけで英語でも通じる
コードの読み方を覚えると、英語音名が一気に実用的になります。コード譜は英語音名の実地訓練そのものです。
| 表記 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| C | シー/シーメジャー | ドを根音とする長三和音 |
| Cm | シーマイナー | ドを根音とする短三和音 |
| C7 | シーセブン | セブンスを加えた和音 |
| Cmaj7 | シーメジャーセブン | 長七度を加えた和音 |
| Csus4 | シーサスフォー | третий音を四度に置き換えた和音 |
| Cdim | シーディミニッシュ | 減三和音 |
| B♭m | ビーフラットマイナー | 変ロを根音とする短三和音 |
| C/E | シーオンイー(C over E) | ベース音がEのC和音 |
英語でコード進行を説明するときは、音名を並べるだけで通じます。”It goes C, A minor, F, G.” と言えば、相手はすぐに弾き始められます。
長調はmajor、短調はminorですが、ドイツ語圏では長調にdur(ドゥアー)、短調にmoll(モール)を付け、C dur、f mollのように表します。イタリア語ではmaggiore、minoreです。
では、こうした知識を実際の会話でどう使うのか。場面ごとに使える言い方を見ていきます。
場面別・音楽の話をするための英語例文
- 音名の説明、調の確認、移調の依頼が会話の三大場面
- note nameやkeyといった基本語を押さえれば短い文で通じる
- 冠詞や所有格の抜けが誤用の定番(in the music world / If that’s so)
- 楽器名にはplay the guitarのようにtheを付けるのが基本
音名を知ったら、そのまま口に出せる形で覚えておくと会話が広がります。短い一文で十分に通じるのが音楽の会話のありがたいところです。

音名そのものを説明する
ドレミは英語ではなくイタリア語です。
「ドゥ・レイ・ミー」と、reを「レイ」に近く発音するのが英語圏の慣習です。not Englishの前で少し息を置くと、訂正の意図が伝わりやすくなります。
海外の友人と音楽の話題になり、日本ではドレミで習うと伝えたいとき。
Do-re-mi is not English but Italian language. と言うと硬く冗長です。languageは不要で、not English だけで足ります。
英語では、音名はC・D・E・F・G・A・Bです。
文字を読み上げるときは一文字ずつ区切り、最後のand Bの前で軽く上げ調子にすると聞き取りやすくなります。
レッスンやオンラインのやり取りで、自分の理解を確認したいとき。
note name は「音名」、scale は「音階」で別物です。音名を並べたいときに The scale is C, D, E… と言うと、音階の話と受け取られることがあります。
調と移調について尋ねる
この曲は何調ですか。— ト長調です。
key is が「キーイズ」とつながって「キーィズ」に聞こえます。短く「What key?」だけでも現場では通じます。
セッションや合わせの前に、弾く調を確認するとき。
文末のinを落として What key is this song? と言う人が多いですが、in が必要です。答えるときも It’s G major. より It’s in G major. が自然です。
半音下げてもらえますか。
transposeは後ろの音節を強く読みます。Can you…? の形なので依頼として柔らかく響きます。
歌の音域が合わないとき、伴奏者に調整を頼むとき。
transposeは他動詞なので目的語が必要です。Can you transpose down? では何を下げるのかが伝わりません。イギリス英語では half step の代わりに semitone がよく使われます。
楽器店・レッスンでのやり取り
店員: 何かお探しですか。学習者: はい。このギターのA弦はどれですか。店員: 5弦です。ふつう最初にAで合わせます。学習者: なるほど。日本ではラの弦と呼ぶことも多いです。
A stringは「エイ・ストリング」。tune toのtoは弱く「タ」に近く発音されます。
弦の番号は序数で言うのが基本で、the fifth string が自然です。the five string とは言いません。
先生: 昨日のレッスンは楽しかったですか。生徒: 楽しかったです、でも少し難しかったです。2つの音階を覚えないといけません。先生: そうなのですか。どうしてそう思ったのですか。生徒: ドレミの音階だけ知っていたのですが、今はC・D・Eの音階も必要なんです。先生: ドレミの音階はイタリア語、C・D・Eの音階は英語です。どちらも音楽の世界でよく使われます。生徒: それなら覚える必要がありますね。
Is that so? は相手の話を受け止める軽い相槌で、驚きを強く出すと詰問に聞こえます。語尾をやわらかく上げる程度がちょうどよいです。
レッスンの振り返りや、学んだ内容を相手に説明するとき。
会話に出てきた表現の確認
会話で使った言い回しを、そのまま使える形で整理します。短い相槌を持っているだけで、会話が途切れにくくなります。
- Is that so?:そうなのですか。(軽い相槌)
- What makes you think so?:どうしてそう思ったのですか。
- scale:音階、スケール
- musical instrument:楽器
- musical score:楽譜
- If that’s so:それならば(If so / In that case とも言える)
「If that so」と書いてしまう誤りがとても多いのですが、正しくは If that’s so(=If that is so)です。また in music world ではなく in the music world(音楽界では)と冠詞が必要です。音楽界は the music world、演奏会は a concert と使い分けます。
では、会話を支える語彙をもう少し広げておきましょう。
音楽の話題で使う英単語リスト
- 音階はscale、音名はnote name、調はkey
- 楽譜はsheet music、五線はstaff(英ではstave)
- 音符の呼び方はアメリカ英語とイギリス英語で大きく違う
- 初見演奏はsight-reading、耳コピはplaying by ear
音名の周辺語彙を押さえると、会話の守備範囲が一気に広がります。まずは12語ほどから始めれば十分です。
| 日本語 | 英語 |
|---|---|
| 音階 | scale |
| 音名 | note name / pitch name |
| 調 | key |
| 楽譜 | sheet music / score |
| 五線 | staff(英:stave) |
| ト音記号 | treble clef |
| ヘ音記号 | bass clef |
| 小節 | bar / measure |
| 半音 | half step(英:semitone) |
| 全音 | whole step(英:tone) |
| 移調する | transpose |
| 調律する | tune |
楽譜を見ながらその場で弾くことはsight-reading、耳で覚えて弾くことはplaying by earと言います。”I’m not good at sight-reading, but I can play by ear.” のように使えば、自分の得意不得意をひと言で伝えられます。
音符の呼び方はアメリカ英語とイギリス英語で大きく異なります。四分音符はアメリカでquarter note、イギリスでcrotchet、八分音符はeighth noteとquaver。イギリス式は語源が異なるため、初めて見ると別世界の単語のように感じます。
アメリカ式は分数の考え方どおりなので、日本人には馴染みやすいはずです。まずはquarter note、eighth noteなどのアメリカ式で覚え、イギリス式は「そういう言い方もある」と頭の片隅に置くくらいで十分です。
ここまでの内容で、つまずきやすい箇所もはっきりしてきました。最後に落とし穴をまとめて確認しておきます。
つまずきやすいポイントを整理する
- ドレミはイタリア語だが、英語圏にドレミが存在しないわけではない
- シは英語でB、ドイツ語でH。ドイツ語のBはB♭を指す
- 英語圏のソルフェージュではSiではなくTiを使う
- ソの綴りはSolとSoのどちらもあり得る
間違えやすい点を並べて確認します。誤解の多くは「二種類あること」の見落としから生まれます。
まず、ドレミはイタリア語であって英語ではありません。英語で音名を言うときはアルファベットを使います。ただし英語圏でも歌うための階名としてDo, Re, Miは使われており、「英語圏にドレミが存在しない」わけではない点は誤解しないようにしたいところです。
次に、シの音は英語ではBですが、ドイツ語ではH。ドイツ語のBはシのフラットを指します。英語の楽譜とドイツ語の指示が混ざる現場では、ここが最大の事故ポイントです。
英語圏のソルフェージュでは、シにあたる音節がSiではなくTi。海外の子ども向け教材で「Ti」を見かけても誤植ではありません。
ソの綴りはイタリア語でSol、英語の教材ではSoと書かれることが多く、どちらも同じ音を指します。教材によって違っていても、同じものだと知っていれば動じません。
そして、ド=Cという対応はあくまで音名(固定ド)の話です。移動ドで考える場面では、ト長調の「ド」はGの音になります。話し相手がどちらの立場で話しているかを確かめると、無用な混乱を避けられます。
落とし穴が見えたら、あとは定着のための練習です。短い時間でも続けられる形に落とし込みましょう。
1週間で英語音名を手になじませる練習プラン
- 1日5分、声に出す練習を優先する
- 土台のC・F・G・A→残り3音→逆順→ランダムの順に負荷を上げる
- 実際の曲のコード譜を読むところまで進めると記憶が固定しやすい
- チューナーや楽器の開放弦を使い、音と文字を結びつける
知識として読んだだけでは、演奏中にとっさに出てきません。1日5分の音読を一週間続けると、変換の速さが変わってきます。

1日目と2日目は、土台のC・F・G・Aだけを扱います。鍵盤の図を見ながら「黒鍵2つの左がC」「黒鍵3つの左がF」と口に出し、A=ラ、G=ソを添えて唱えます。
3日目と4日目は、残るD・E・Bを推理で埋める練習です。「Cの次だからD=レ」「Fの前だからE=ミ」「Aの次だからB=シ」と、理由ごと声に出すのがポイントです。
5日目は逆順に挑戦します。ド(C)シ(B)ラ(A)ソ(G)ファ(F)ミ(E)レ(D)ド(C)と下りながら唱え、どこで詰まるかを確認してください。詰まった箇所が、あなたの弱点です。
6日目はランダムです。紙に7文字を書いて切り、引いた文字をドレミに変換します。声に出すまで2秒以内を目標にすると、実戦に近い速さが身につきます。
7日目は、好きな曲のコード譜を1曲開いて、出てくるコードの根音をすべてドレミに読み替えてみましょう。知識が「使える形」に変わる瞬間を体感できます。
ここまでの練習に英語での言い換えを加えると、そのまま会話の材料になります。”This song is in C major.” “The chords are C, A minor, F and G.” と声に出すだけで、音楽の話題を英語で始められます。
覚えた言い方を相手に向けて使う機会があると、定着の度合いは変わってきます。音楽が好きなら、その話題をそのまま英会話の題材にしてしまうのが自然な近道です。
最後に、よく寄せられる疑問をまとめて確認しておきます。
よくある質問
- ドレミと英語音名は対立するものではなく役割が違う
- 迷ったときは「ラ=A」と「固定ドか移動ドか」の二点に戻る
- ドイツ語のHとBのずれだけは音を出して確認するのが安全
音の名前をいくつも持つということ
- ドレミだけでも音楽は十分に楽しめる
- 英語音名を知るとコードの仕組みが見えてくる
- ドイツ語音名は合奏の会話、日本語音名は教科書や曲名で役立つ
- ひとつの音に名前が増えるほど、音楽への入り口が増える
「ドレミだけで音楽は十分に楽しめる」という言い分は、まったくの正論です。歌うだけなら、ドレミがあれば足ります。
それでも別の呼び名を覚える価値があるのは、音名が単なる言い方の違いではなく、音楽の世界への通行証だからです。
英語音名を覚えればコードの仕組みが見え、ドイツ語音名を覚えれば合奏の会話に入っていけ、日本語音名を覚えれば教科書や曲名が読み解ける。ひとつの音にいくつもの名前を持たせておくことは、そのぶん多くの入り口を持つことと同じです。
ギターを手に取りたいと思った人が、C・D・Eという新しい呼び名を覚えようと決めた瞬間、その人の音楽はもうひとまわり大きくなっています。今日覚えた7文字を、次に楽器を触るときに声に出してみてください。
それではまた、See you!

