食事が終わって、伝票がテーブルに置かれる。ここは自分が出したい。そう思った瞬間に、口から出てくるのは「I’ll pay…?」で、そのまま数秒固まってしまう。英語を学んでいる人の多くが、一度は経験する場面です。

お金の話はどの言語でもデリケートで、言い方ひとつで印象が変わります。日本語なら「ここは私が」「今日はおごるよ」で済むのに、英語だと相手との距離感、場所、金額の出し方まで含めて言葉を選ぶ必要があります。だからこそ、単語の直訳ではなく場面ごとに一つずつ言い方を持っておくのが近道です。

この記事では、「おごる」の定番表現5パターン、pay を使うと事務的に響く理由、バー特有の round という考え方、おごられた側の受け方とお礼、そして割り勘の言い方までを順番に整理していきます。読み終わったら、伝票が来ても黙り込まずに一言目が出せるようになるはずです。実際の会話でどう聞こえるかを試したい人は、英語教室のような相手のいる場で口に出してみると、定着が一気に早くなります。

まずは、覚える表現の全体像から見ていきましょう。

「おごる」の英語は一語ではない:全体像をつかむ

この章の要点
  • 迷ったら「It’s on me.(私のおごりです)」で通じる。まずこれ一つを確実に。
  • 英語は「私が払う」ではなく「食事や伝票が私の負担」という言い方をする。
  • on me / my treat / I’ve got this / buy you a drink / pick up the check の5系統で、ほぼすべての場面をカバーできる。
  • 金額を前面に出さない言い方のほうが、押しつけがましくならない。

最初に答えを言ってしまうと、「おごるよ」に一番使われる英語は It’s on me. です。日本語の「私のおごり」にほぼそのまま重なり、友人にも同僚にも使えます。ここから先の内容は、この一文を軸にした応用と使い分けだと考えてください。

なぜ It’s on me. が自然に響くのか。理由は主語の置き方にあります。英語の支払い表現は「I(私)」を主語にして「払う」と宣言するのではなく、「it(この食事・この伝票)」を主語にして「それは私の負担にある」と言う形を好みます。人ではなく物を主語にすることで、お金の生々しさが一段やわらぐわけです。

たとえば、同じ場面で使える言い方を並べてみます。Dinner is on me.(夕食は私が持ちます)、It’s my treat.(ご馳走します)、I’ve got this.(ここは私が)、Let me buy you a drink.(一杯おごらせて)、I’ll pick up the check.(勘定は私が持ちます)。どれも「いくら払う」ではなく、「この場を引き受ける」という発想でできています。

この5系統をどう振り分けるかは、あとの章で場面別に整理します。その前に、多くの学習者が最初に口にしてしまう I’ll pay. がなぜ惜しいのかを見ておきましょう。ここを理解すると、残りの表現の意味がすっと入ってきます。

「I’ll pay.」が通じるのに惜しい理由

この章の要点
  • pay は「支払い行為」を指す事務的な動詞で、レジでの手続きを説明する響きになりやすい。
  • I’ll pay. だけだと、伝票を取り合っている最中の主張のように聞こえることがある。
  • I’ll pay for you. は「あなたの分を代わりに払ってあげる」という上下関係が出やすく、避けたい。
  • 同じ気持ちを伝えるなら I’ve got this. や My treat. のほうがやわらかい。

「払う」と聞いて真っ先に浮かぶのは pay でしょう。そして I’ll pay. は文法的にも意味的にも正しく、伝わらないことはありません。ただ、レストランで気持ちよくおごるときの第一声としては、少し硬いのです。

フレーズ
I’ll pay.
日本語訳
私が払います。
使う場面
支払い方法や支払い担当をはっきり確認する場面。「カードで払います」「この分は私が支払います」のような事務的な確認。
注意点・誤用例
友人との食事の締めくくりに I’ll pay. だけを言うと、譲らない宣言のように響くことがある。I’ll pay for you.(あなたの分を払ってあげる)はさらに上下関係が出やすいので、おごりの申し出には向かない。
発音・ニュアンス
「アイル ペイ」。pay を強く言い切ると押しの強さが増す。同じ内容をやわらげたいなら Let me pay. のように Let me を前に置くだけでも印象が変わる。

pay が事務的に感じられるのは、この動詞が「金銭を渡す行為」そのものを指しているからです。日本語でも、食事の席で「私が支払いを行います」と言えば、少し役所的に聞こえます。英語の I’ll pay. にも、それに近い温度差があります。

注意点

I’ll pay for you. は文法的には正しいものの、「あなたには払えないだろうから代わりに」という含みが出て、相手を子ども扱いしているように受け取られる場合があります。特に対等な関係の友人や、初対面の相手には避けてください。同じ場面では Dinner’s on me. や I’ve got this. を選ぶほうが安全です。

もちろん pay がまったく使えないわけではありません。Let me pay this time.(今回は私に払わせて)のように Let me を前に置けば依頼の形になり、押しつけ感が消えます。避けたいのは、裸の I’ll pay. や I’ll pay for you. で押し切ることだけです。

では、実際にネイティブスピーカーが使う言い方はどんなものなのでしょうか。ここからが記事の中心部分です。

定番はこの5パターン:使い分けを一つずつ

この章の要点
  • It’s on me.:万能。主語を変えれば「何をおごるか」を自由に指定できる。
  • My treat.:一段ていねい。誕生日やお祝い、目上の相手を迎える食事に。
  • I’ve got this. / I’ll get this.:もっともさりげない。伝票が来た瞬間の一言。
  • Let me buy you a drink.:飲み物や単品向き。バー・カフェで自然。
  • I’ll pick up the check. / foot the bill:仕事の会食や費用負担の話に。

この5系統を押さえると、日常で出会う支払い場面のほとんどに対応できます。順番に、例文と注意点を見ていきましょう。

カフェのテーブルに置かれた革の伝票ホルダーに、左右から二人の手が同時に伸びている様子
伝票が置かれた数秒が勝負。最初の一言を用意しておくと迷わない。

1. It’s on me.(私のおごりです)

使用頻度と応用範囲でいえば、これが最強です。on me は「私の負担で」という意味で、it は食事や飲み物、あるいは伝票そのものを指します。

フレーズ
It’s on me tonight.
日本語訳
今夜は私のおごりです。
使う場面
友人や同僚との食事・飲み会。誘う段階で言っても、伝票が来てから言ってもよい。カジュアルからややフォーマルまで幅広く使える。
注意点・誤用例
It’s for me. と言うと「これは私のためのもの」という別の意味になる。負担を示す前置詞は on。また It’s on the house. は「店のおごり」なので、自分が払う場合には使えない。
発音・ニュアンス
「イッツ ォン ミー」とつなげ、on me をひと息で。It is on me. とフルで発音すると硬く、わずかに芝居がかって聞こえるので、縮約形が自然。

この形の便利さは、主語を入れ替えるだけで「何をおごるか」を指定できるところにあります。

  • Dinner is on me.(夕食は私が持ちます)
  • Lunch is on me today.(今日のランチは私が)
  • Drinks are on me.(飲み物は私のおごりです)
  • Coffee’s on me.(コーヒーは私が出すよ)
  • Let’s grab dinner tonight. It’s on me.(今夜ご飯食べに行こう。おごるよ)
  • This is on me. Order whatever you want.(ここは私が。好きなもの頼んで)
  • The first round is on me.(最初の一杯は私が)

気をつけたいのは主語と動詞の一致です。飲み物が複数なら Drinks are on me. で、Drinks is on me. は誤りになります。日本語の感覚では「飲み物」という一つのかたまりに見えますが、英語では複数として扱われます。

似た形の It’s on the house. は「店のおごり」で、店側からのサービスを意味します。常連客に一杯出すときなど、店員が言う表現です。自分が払うつもりで使うと、誰も払わないことになってしまいます。

2. (It’s) my treat.(ご馳走します)

treat には「もてなす」「楽しみを与える」という意味があり、そこから「ご馳走する」の用法が生まれました。It’s on me. よりも一段ていねいで、少し特別な食事に向いています。誕生日、昇進祝い、大事な相手を迎える場面などです。

フレーズ
It’s my treat tonight.
日本語訳
今夜は私がご馳走します。
使う場面
お祝いやお礼の食事、少し格式のあるレストラン、年上の相手や取引先を招く場面。「もてなす」気持ちを込めたいとき。
注意点・誤用例
動詞として使うときは treat 人 to ○○ の形。I’ll treat you lunch. は誤りで、I’ll treat you to lunch. が正しい。前置詞 to を落とさないこと。
発音・ニュアンス
「マイ トリート」。treat の r を意識して、トゥリートに近い音で。伝票に軽く手を伸ばしながら My treat. と短く言うと、余裕のある印象になる。

名詞として使う場合の例を並べます。It’s を省いて My treat. だけでも成立し、実際の会話ではこの短い形がよく使われます。

  • This is my treat, so order whatever you’d like.(私のおごりだから、好きなものを頼んで)
  • Don’t worry about the bill. My treat.(お会計は気にしないで。ご馳走しますから)
  • Put your wallet away. It’s my treat.(財布はしまって。私がご馳走します)
  • Happy birthday! Tonight is my treat.(誕生日おめでとう。今夜は私のおごりだよ)

動詞として使うときは treat 人 to ○○ の形をとります。「○○を人にご馳走する」という意味で、to をひとかたまりで覚えてしまうのが安全です。

  • I’ll treat you to lunch this weekend.(今週末ランチをご馳走するよ)
  • Let me treat you to dinner tonight.(今夜は夕食をご馳走させてください)
  • He treated me to coffee last time.(前回は彼がコーヒーをおごってくれた)
  • They treated us to a wonderful meal.(素晴らしい食事をご馳走してもらった)
  • I treated myself to a nice dinner after the exam.(試験のあと、自分にご褒美でいい夕食を食べた)

最後の例のように treat oneself to ○○ で「自分にご褒美をあげる」という言い方もできます。名詞の treat は「ちょっとしたご褒美・楽しみ」という広い意味を持ち、as a treat(ご褒美として)という形で、子どもにアイスを買う場面などにも応用できます。

さらに格式を上げたい場面なら Allow me to treat you to dinner tonight.(今夜の夕食をご馳走させてください)という言い方もあります。ただし、ここまで丁寧だと相手が「そんな、悪いですよ」と身構えてしまうことがあるため、友人同士では大げさに響きます。

3. I’ve got this. / I’ll get this.(ここは私が)

さりげなさで言えば、この get 系が最上級です。伝票が置かれた瞬間に軽く言うだけで、押しつけがましさがまったく出ません。日本語の「ここはいいよ」に近い温度感です。

フレーズ
I’ve got this.
日本語訳
ここは私が(払うよ)。
使う場面
伝票が来た直後の一言。友人・同僚とのカジュアルな食事、カフェ、軽い飲み。大げさにしたくないときに最適。
注意点・誤用例
I’ve got this. は文脈によって「まかせて・大丈夫」という別の意味にもなる。伝票を手に取る動作や視線を添えると誤解がない。get を「捕まえる」と直訳しないこと。
発音・ニュアンス
実際には「アイ ガッ ディス」に近く、’ve はほとんど聞こえない。I got this. と言う人も多い。軽く、早めに言うのがコツ。
  • I’ve got this. Don’t worry.(ここは私が。気にしないで)
  • I’ll get this one. You can get the next one.(今回は私が。次はお願い)
  • I’ll get the bill today.(今日は私が払うよ)
  • Let me get this, please.(これは私に払わせてください)
  • Thanks. I’ll get you next time.(ありがとう。次は私がおごるね)
  • I’ve got the check. Go ahead and get the car.(会計はやっておくから、車を回してきて)

it の代わりに the bill / the check / the tab を入れても同じ意味になります。ここで語彙を整理しておきましょう。bill はイギリス英語、check はアメリカ英語で「勘定・伝票」を指し、tab はバーやパブで飲んだ分をまとめて記録しておく勘定を指します。

I’ll get you next time. は、おごってもらった側が返す定番のひとことです。get が「支払う」の意味で使われているので、直訳に引っぱられないよう気をつけてください。

4. Let me buy you a drink.(一杯おごらせて)

buy は「〜を買ってあげる」という具体性の強い動詞で、飲み物や単品の飲食物と相性がいい表現です。バーやカフェでもっとも自然に響きます。

フレーズ
Let me buy you a drink.
日本語訳
一杯おごらせてください。
使う場面
バーやパブ、カフェ。お礼やお詫びの気持ちを軽く形にしたいとき。相手に何を飲みたいか選ばせる流れを作れる。
注意点・誤用例
初対面の相手にバーで Can I buy you a drink? と言うと、口説き文句として受け取られる場合がある。ビジネスの場や親しくない相手には Let me get you a coffee. のように内容を変えるほうが無難。
発音・ニュアンス
「レッミー バイユー ア ドリンク」。Let me は「レッミー」、buy you は「バイユー」とつながる。Let me 〜 の形は依頼なので、押しつけにならず断りにくい絶妙なバランスになる。
  • I’ll buy you a drink. What do you want?(一杯おごるよ。何がいい?)
  • Let me buy you a beer.(ビール一杯おごらせて)
  • Can I buy you a coffee?(コーヒーおごってもいい?)
  • I’m sorry I’m late. To make up for it, let me buy you lunch.(遅れてごめん。お詫びにランチおごらせて)
  • You helped me so much. At least let me buy you a drink.(すごく助かった。せめて一杯おごらせて)

buy は「品物を買う」イメージが残るので、フルコースのディナー全体よりも、一杯・一皿といった単位に向きます。食事全体をおごるなら It’s on me. や My treat. のほうがしっくりきます。

5. I’ll pick up the check. / foot the bill.(勘定を持つ)

会計を「引き受ける」ニュアンスを出したいときの表現です。ビジネスの会食や、まとめて支払う場面で耳にします。

フレーズ
I’ll pick up the check.
日本語訳
勘定は私が持ちます。
使う場面
取引先との会食、部署の食事会、大人数のまとめ払い。「全体を引き受ける」という責任感のある響きになる。
注意点・誤用例
友人同士のカフェで使うと、やや大げさで芝居がかって聞こえることがある。少額の場面では I’ve got this. で十分。pick up は「拾う」の直訳では意味が通らない。
発音・ニュアンス
「ピッカップ ザ チェック」。pick up がつながって聞こえる。落ち着いたトーンで言うと、場を仕切る立場の言い方として自然。
  • He picked up the tab for all of us.(彼が全員分の勘定を持ってくれた)
  • Our company will foot the bill.(費用は当社が負担します)
  • Don’t worry, the company is covering dinner.(心配しないで、夕食は会社の負担です)
  • I’ll cover it.(私が持つよ)
  • Dinner’s covered.(夕食代は済んでるよ)

foot the bill は「請求書の末尾(foot)の合計額を払う」というイメージから来た表現で、食事だけでなく費用負担全般に使えます。cover も同系統で、I’ll cover it. のように短く言えるため、日常でも使いやすい動詞です。

5つの表現がそろいました。とはいえ、実際の食事の席では一言で終わらず、相手が遠慮し、理由を伝え、次の約束につながる、という往復が生まれます。次は、その流れを会話で見ていきましょう。

会話例で「おごる」の流れを体感する

この章の要点
  • おごりの申し出は「申し出→遠慮→理由→受け入れ→次の約束」の5ステップで進むことが多い。
  • 相手の You don’t have to. は儀礼的な遠慮であることも本気の辞退であることもある。
  • 短い理由を添えると、相手が好意を受け取りやすくなる。

まずはランチの席での定番のやり取りです。役割は「学習者」と「同僚」としています。

会話例(同僚とのランチ)
学習者: What’s good here?
同僚: The seafood is excellent. I’m going to order the clam chowder.
学習者: I’ll have the same. And I’ll treat you to this lunch.
同僚: Oh, you don’t have to pay for mine.
学習者: This is my way of saying thanks. You always teach me things I don’t know.
同僚: Thank you. But next time, let’s split it.
日本語訳
学習者: ここは何が美味しいの?
同僚: 魚介類が最高だよ。僕はクラムチャウダーにする。
学習者: 私も同じのにします。あと、このランチは私がおごりますね。
同僚: いや、私の分まで払わなくていいよ。
学習者: 感謝の気持ちです。いつも知らないことを教えてくれるので。
同僚: ありがとう。でも次は割り勘にしようね。
使う場面
日頃のお礼を食事で返すとき。相手が一度遠慮しても、理由を添えれば自然に受け取ってもらえる。
注意点
相手の Let’s split it next time.(次は割り勘にしよう)は、対等な関係を保ちたいという意思表示。強く押し返さず、Sounds good. と受け止めるのが自然。

次はカフェで、店員も含めたやり取りです。会計を一人にまとめる場面の言い方を確認しておきましょう。

会話例(カフェのレジで)
店員: Together or separate?
学習者: Together, please. It’s on me today.
友人: Are you sure? I can get mine.
学習者: You got the last one, so this one’s on me.
友人: Thanks. I owe you one.
日本語訳
店員: ご一緒ですか、別々ですか?
学習者: 一緒でお願いします。今日は私のおごりで。
友人: 本当にいいの?自分の分は払えるよ。
学習者: 前回出してもらったから、今回は私が。
友人: ありがとう。借りができたね。
使う場面
レジで支払う形式のカフェやファストフード。Together or separate? はよく聞かれるので、答えを用意しておくと慌てない。
発音・ニュアンス
Together, please. は「トゥゲザー プリーズ」と短く。店員への返答は簡潔なほうが伝わりやすい。

最後に、仕事の会食での言い方です。ここでは 会社が負担するという枠組みを示すことで、相手に気を遣わせない工夫がされています。

会話例(取引先との会食)
取引先: Shall we ask for the bill?
学習者: I’ll take care of it. Our company is footing the bill tonight.
取引先: That’s very kind. Are you sure?
学習者: Of course. Thank you for making time for us today.
取引先: Then thank you. Next time in Tokyo, it’s on us.
日本語訳
取引先: お会計を頼みましょうか?
学習者: こちらで済ませます。今夜は弊社が負担いたします。
取引先: ご親切に。よろしいのですか?
学習者: もちろんです。本日はお時間をいただきありがとうございました。
取引先: ではありがたく。次に東京で会うときは、こちらが持ちます。
使う場面
ビジネスの会食。個人の好意ではなく組織の負担として示すと、相手も受け取りやすい。
注意点
相手の会社の規定で接待を受けられない場合もある。強く押し切らず、Let’s split it. と言われたら素直に応じるのが安全。

3つの会話に共通しているのは、おごる側が必ず理由を添えている点です。じつはここが、日本語との一番大きな違いかもしれません。

おごるなら理由をひとこと添える

この章の要点
  • 理由のないおごりは、戸惑いや警戒を生むことがある。
  • お礼、お祝い、前回の埋め合わせ、こちらの都合など、短い一文で十分。
  • 理由があると、相手は好意を受け取る根拠を得られる。

欧米では、納得できない好意に対して「なぜ?」を確認する傾向が比較的強くあります。理由のないおごりは、ありがたいというより「何か見返りを期待されているのか」「気を遣わせてしまったのか」という戸惑いにつながることがあるのです。

だからこそ、おごるつもりなら理由を一緒に伝えましょう。ごく短い一文で構いません。

  • This is my way of saying thank you for all your help.(いつも助けてくれるお礼です)
  • You got the last one, so this one’s on me.(前回出してもらったから、今回は私が)
  • It’s your birthday. It’s on me.(誕生日なんだから、私が払うよ)
  • You just got promoted. Let me celebrate with you.(昇進したんだから、お祝いさせて)
  • I dragged you all the way out here, so dinner’s on me.(わざわざ来てもらったから、夕食は私が持つよ)
  • You’re my guest tonight.(今夜はあなたが私のゲストですから)
  • I got a bonus this month, so let’s celebrate.(今月ボーナスが出たから、お祝いしよう)
  • You’ve been so busy helping me move. This is the least I can do.(引っ越しを手伝ってくれたから、これくらいはさせて)

理由が示されると、相手は「なるほど、それなら」と受け取れます。好意に根拠を添えるだけで、お互い気持ちよく食事を終えられるのです。

もう一つ便利なのが This is the least I can do.(これくらいしかできないので)という言い方です。自分の負担を小さく見せる表現なので、相手が遠慮しにくくなります。

ここまではレストランの場面が中心でした。次は、少し独特のルールが働くバーの世界を覗いてみましょう。

バーでは round という単位で考える

この章の要点
  • round は「同席者全員分のひと回り」を指す単位。3人なら3杯で1ラウンド。
  • This round is on me. は注文ごとに支払う飲みの場でのみ成立する。
  • 順番に買い合うことで負担が均等になる、という文化的な合意がある。
  • おごってもらったら、次のラウンドを申し出るのが作法。

英語圏のバーやパブには、一緒に飲んでいる人の分をまとめて買う習慣があります。この「ひと回り分」を round と呼びます。3人で飲んでいれば3人分のドリンクを買うことが buy a round です。

パブでビール4杯を乗せたトレイを運ぶ人と、笑いながら受け取ろうとする友人たち
全員分をまとめて運ぶのが「ラウンド」。順番に買い合うのが作法。
フレーズ
This round is on me. What do you want?
日本語訳
このラウンドは私が。何がいい?
使う場面
カウンターで注文ごとに支払うバーやパブ。同席者全員の飲み物をまとめて買うとき。
注意点・誤用例
伝票を最後にまとめて精算するレストランでは This round is on me. は成立しない。食事の席なら It’s on me. を使う。飲み代全額を持ちたいなら Drinks are on me tonight. と言えば伝わる。
発音・ニュアンス
「ディス ラウンディズ オン ミー」。round is がつながる。騒がしい店内では短く区切り、指で人数を示すと伝わりやすい。
  • I’ll get this round. Beers okay?(今回は私が買うよ。ビールでいい?)
  • You got the last round, so this one’s mine.(前のラウンドは君が出してくれたから、これは私が)
  • I’ve got the next round.(次のラウンドは私が)
  • Do you want another round?(もう一杯いく?)
  • Whose round is it?(今は誰の番だっけ?)
  • It’s my round.(私の番だよ)
  • Let’s put it on my tab.(私の勘定につけておいて)

最後の Let’s put it on my tab. は、カードを店に預けて飲んだ分をまとめて後払いにする形式のバーで使えます。tab を開くときは Can I start a tab?(勘定を開けますか)、閉じるときは Can I close out my tab?(勘定を締めてください)と言います。

このラウンド制は、順番に買い合うことで結果的に負担が均等になる、という文化的な合意にもとづいています。自分の番を飛ばすと感じが悪いので、誰かにラウンドをおごってもらったら、次は自分が買うと申し出るのが作法です。

注意点

大人数のグループでラウンド制に入ると、全員分を何度も買う流れになり、思った以上の出費になることがあります。自分のペースで飲みたい場合は、最初に I’ll just get my own, thanks.(自分の分だけ買います)と伝えておけば問題ありません。無理に付き合う必要はなく、そう言っても失礼にはなりません。

ちなみに、くだけた言い方や古風な言い方も知識として押さえておくと、聞いたときに戸惑いません。I’ll spring for lunch.(ランチは私が出すよ)は「気前よく出す」というくだけた口語で、親しい相手に向きます。I’ll blow you to dinner.(夕食をおごるよ)も同じ意味ですが、やや古い響きで、blow には他の意味も多いため誤解を招きやすい表現です。自分から使うより、聞いて分かる程度にしておくのがちょうどいいでしょう。

ここまでは「おごる側」の言い方でした。支払いは往復のやり取りなので、おごられたときの受け方も一緒に覚えておきましょう。

おごられたときの受け方・お礼・やわらかい辞退

この章の要点
  • いったん遠慮するなら Are you sure? / You don’t have to do that. が定番。
  • 受けるなら Thank you for 〜 と具体的に言い、I owe you one. で次を約束する。
  • 断りたいときは I’d rather split it. のように希望を明確に伝えてよい。
  • お礼を言わずに席を立つのは、どの文化でも印象がよくない。

おごられる側のフレーズを持っていないと、せっかくの好意にうまく応えられません。まず、いったん遠慮するときの言い方です。

  • Are you sure?(本当にいいの?)
  • You don’t have to do that.(そんなことしなくていいのに)
  • Oh, you don’t have to pay for mine.(私の分まで払わなくていいよ)
  • Let me at least get the tip.(せめてチップは私に出させて)
  • Then I’m getting the next one.(じゃあ次は私が出すからね)
  • At least let me leave the tip.(チップだけでも置かせて)

次に、素直に受けるときの言い方です。ここで大事なのは、何に対するお礼かを具体的に言うことです。

フレーズ
Thanks for lunch. I owe you one.
日本語訳
ランチありがとう。借りができたね。
使う場面
友人や同僚におごってもらった直後。「次はこちらが返す」という含みがあるため、関係を続けたい相手に向く。
注意点・誤用例
逆に、おごる側が You owe me one.(貸しだからね)と冗談めかして言うこともできるが、関係性を選ぶ言い方。目上の相手や初対面には使わない。
発音・ニュアンス
「アイ オーユー ワン」。owe は「オウ」で、w は発音しない。軽い笑顔とセットで言うと、気負いのない返しになる。
  • Thank you for dinner. That was really kind of you.(夕食ありがとう。本当に助かりました)
  • That’s very generous of you. Thank you.(気前がいいね。ありがとう)
  • Wow, thank you. That’s so nice of you.(わあ、ありがとう。優しいね)
  • Thanks for the coffee. Next one’s on me.(コーヒーありがとう。次は私が)
  • I really appreciate it. Let me get the next one.(本当にありがとう。次は私に出させて)

では、本当に受け取りたくない場合はどうすればいいのでしょうか。遠慮ではなく明確に断りたいときは、希望をそのまま言葉にして構いません。

  • I’d rather split it, if that’s okay.(できれば割り勘にしたいです)
  • Thanks, but I’m more comfortable paying my own way.(ありがとう。でも自分の分は自分で払うほうが気が楽です)
  • Let’s keep it even. I’ll get mine.(対等でいこう。自分の分は払うよ)
  • That’s really kind, but please let me pay for mine this time.(ご親切に。でも今回は自分の分を払わせてください)

I’d rather 〜 は「どちらかといえば〜したい」という控えめな希望の形なので、相手の好意を否定せずに断れます。強く押し返す必要はありません。

そして、お礼を言わないまま席を立つのは、どの文化でも印象がよくありません。ひとこと Thank you for 〜 と伝える習慣を持っておきましょう。翌日にメッセージで Thanks again for dinner last night!(昨夜の夕食、改めてありがとう)と送るのも、英語圏ではよくある返し方です。

相手が割り勘を望むことも珍しくありません。次は、その言い方をまとめて確認します。

「割り勘」の言い方いろいろ

この章の要点
  • もっとも安全で通用範囲が広いのは Let’s split the bill.
  • 店に伝えるなら Can we get separate checks? / Can we pay separately?
  • chip in は複数人が少しずつ出し合うイメージ。プレゼント代の集金にも使える。
  • あとで送金するなら I’ll send you my share. が便利。

おごると申し出ても、相手が割り勘を希望することはよくあります。対等でいたい、という気持ちの表れでもあるので、その意思は尊重するのが気持ちのよい落としどころです。

Let’s split the bill.(割り勘にしよう)

フレーズ
Let’s split the bill.
日本語訳
割り勘にしよう。
使う場面
友人・同僚・初対面を含め、ほぼすべての場面で使える。相手を選ばず失礼にならないのが強み。
注意点・誤用例
アメリカでは bill より check を使うことが多いので、Let’s split the check. でもよい。split には「均等に割る」という前提があるため、頼んだ量に差があるときは Let’s each pay for what we ordered. のほうが公平。
発音・ニュアンス
「レッツ スプリッ ザ ビル」。split の t は次の語につながって弱くなる。淡々と言えばビジネスライクに、笑顔で言えばカジュアルに響く。
  • Let’s just split it evenly.(均等に割ろう)
  • Should we split it three ways?(3人で割る?)
  • Let’s split the check.(勘定を割ろう)
  • Do you want to split it?(割り勘にする?)
  • Let’s split it down the middle.(半分ずつにしよう)

Can we get separate checks?(別々に払えますか)

こちらは店側に伝えるときの言い方です。アメリカでは、注文時や会計前にこう頼めば、伝票を人数分に分けてくれる店が多くあります。

  • Can we get separate checks?(伝票を別々にしてもらえますか)
  • Can we pay separately?(別々に払えますか)
  • Could you split this between two cards?(カード2枚で分けてもらえますか)
  • Separate checks, please.(別々でお願いします)
  • Could we split the bill four ways?(4人で分けてもらえますか)

混み合った店やコース料理では断られることもあります。そのときは誰かがまとめて払い、あとで送金アプリで精算するのが一般的です。I’ll send you my share.(自分の分を送るね)と言えば通じます。

その他の言い方

  • Let’s go halves on it.(半分ずつにしよう)
  • Let’s chip in.(みんなで出し合おう)
  • Let’s each pay for what we ordered.(自分が頼んだ分をそれぞれ払おう)
  • Let’s just pay our own way.(それぞれ自分の分を払おう)
  • I’ll Venmo you.(あとで送金するね/米国の送金アプリを使う言い方)
  • How much do I owe you?(いくら払えばいい?)
  • What’s my share?(私の分はいくら?)

chip in は複数人が少しずつ出し合うイメージで、送別会のプレゼント代を集めるときにも使われます。How much do I owe you? は、まとめて払ってくれた人に金額を聞く定番の一言で、覚えておくと便利です。

ところで、割り勘の表現として学校で習うことがある「go Dutch」を、あえてここまで出さずにきました。理由があります。

Let’s go Dutch を避けたほうがいい背景

この章の要点
  • go Dutch は意味は通じるが、オランダ人へのステレオタイプに由来する表現。
  • 英蘭対立の歴史から、Dutch を否定的な意味で使う言い回しが英語に残った。
  • 相手の出身や同席者によっては気まずくなるため、自分から使うのは避けたい。
  • 迷わず Let’s split the bill. を選べば、誰に対しても失礼にならない。

Let’s go Dutch.(割り勘にしよう)や Dutch treat(割り勘)は、教材で見かけることのある表現です。意味は通じますが、使う相手と場面には注意が必要です。

注意点

go Dutch の Dutch は「オランダの」という意味で、オランダ人をけちだと決めつけるステレオタイプから生まれた表現です。悪気がなくても不快に感じる人がいますし、オランダ出身の人が同席していれば、なおさら気まずい空気になります。自分から口にするのは避け、Let’s split the bill. を使ってください。

背景にあるのは、大航海時代から17世紀にかけての英蘭対立です。制海権と貿易利権を争ったイギリスにとって、オランダは最大のライバルでした。その敵対感情が言葉に持ち込まれ、Dutch を「悪い」「うさんくさい」「けちな」の意味で使う言い回しが英語に定着していきました。

同じ経緯から生まれた表現には、次のようなものがあります。

  • Dutch courage(酒を飲んで出す空元気)
  • double Dutch(さっぱり理解できない言葉、ちんぷんかんぷん)
  • Dutch uncle(遠慮なく厳しく説教する人)
  • Dutch auction(値を下げていく競売)
  • in Dutch(面倒なことになっている)

いずれも、特定の国民に否定的な性格を結びつける構造を持っています。英語圏では出身や人種にまつわる言葉づかいに敏感な人が多く、悪気がなくても引っかかる相手はいます。世代的にもやや古びた響きがあるため、若い層の会話ではあまり出てきません。

つまり go Dutch は聞いて分かればよい表現です。誰かに言われたら意味は理解できるようにしておき、自分が言うときは Let’s split the bill. を選ぶ。この線引きで十分です。

言葉の背景が分かったところで、実際の会計の仕組みも押さえておきましょう。フレーズは習慣とセットで理解すると、使いどころが見えてきます。

会計まわりの習慣を知るとフレーズが生きる

この章の要点
  • アメリカ・カナダのレストランはテーブルで会計するのが基本。Could we get the check, please? と頼む。
  • チップの慣習がある地域では、おごる側はチップまで負担するのが前提。
  • 割り勘のときはチップも分ける。Let’s split the tip, too. と確認するとすっきりする。
  • 迷ったら同席者の動きを見るのが確実。国や店で作法は変わる。

アメリカやカナダのレストランでは、席で伝票を受け取り、テーブルで支払いを済ませるのが基本です。会計を頼むときは Could we get the check, please?(お会計をお願いできますか)と伝えます。

  • Could we get the check, please?(お会計をお願いします/米)
  • Could we have the bill, please?(お会計をお願いします/英)
  • Whenever you’re ready.(お手すきのときに)
  • I’ll take the check whenever you get a chance.(手が空いたら伝票をください)
  • Is service included?(サービス料は含まれていますか)

チップの慣習がある地域では、伝票の金額に一定の割合を加えて支払います。伝票に gratuity として最初から含まれている店もあるので、Is service included? と確認しておくと二重に払う失敗を防げます。

割り勘にするときはチップも分けるのが公平なので、Let’s split the tip, too.(チップも割ろう)と一言添えると計算がすっきりします。おごる側になるなら、チップまで含めて負担するのが前提です。

相手が Let me at least get the tip.(せめてチップは私に)と言ってきたら、それは形式的な遠慮ではなく本気の申し出であることも多いので、素直に受け取っても失礼にはなりません。少しでも役割を持ちたい、という気持ちの表れです。

イギリスやオーストラリアではチップの慣習がゆるやかで、サービス料が伝票に加算されている場合もあります。国や店によって作法が違うため、迷ったら同席者の動きを見るのが確実です。

支払うタイミングについても一点。人前で財布を出して張り合うのは、英語圏でもあまり上品とはみなされません。おごると決めているなら、席を立つ前に静かにカードを渡してしまう、いわゆる先払いのやり方もよく使われます。トイレに立つふりをしてレジで済ませるのも、じつは定番の手です。

習慣が分かると、フレーズの選び方に迷いがなくなります。次は、学習者がとくにつまずきやすいポイントを一気に確認しましょう。

つまずきやすい7つのポイント

この章の要点
  • invite に「おごる」の意味はない。誘うだけの動詞。
  • treat は 人 to ○○ の形。to を落とすと誤り。
  • on me を for me にすると意味が変わる。
  • Drinks are on me. の主語は複数扱い。

よくある間違いを、誤用例と正しい形のセットで並べます。ここを避けられれば、伝わり方がぐっと安定します。

1. invite を「おごる」の意味で使ってしまう

日本語の「招待する」に引っぱられて I’ll invite you to dinner. と言っても、英語では「夕食に誘う」だけで、支払いの意味は入りません。相手は「行くけど、自分の分は払うのかな」と考えます。おごる意図を伝えたいなら I’ll treat you to dinner. や Dinner’s on me. と続けてください。

2. treat の前置詞を落とす

誤:I’ll treat you lunch. / 正:I’ll treat you to lunch. treat は give のように目的語を二つ並べる形をとりません。treat 人 to 物と一続きで覚えるのが安全です。

3. on me を for me と言ってしまう

It’s for me. だと「これは私のためのもの」という別の意味になり、店員には「私が注文した品です」と聞こえます。負担を示すのは on です。It’s on me. と正確に。

4. Drinks is on me. と単数扱いにする

主語が複数なら are です。Drinks are on me. と揃えましょう。単数なら The drink is on me. や Coffee’s on me. になります。

5. This round is on me. をレストランで使う

round は注文ごとに精算する飲みの場の単位です。伝票をまとめて精算する食事の席では意味をなさないので、It’s on me. を使ってください。

6. I’ll pay. で押し切る

通じはしますが、事務的で押しの強い響きになりがちです。同じ場面なら I’ve got this. や My treat. のほうがやわらかく届きます。どうしても pay を使うなら Let me pay this time. の形に。

7. おごる理由を言わない

好意の押し売りと受け取られることがあります。ひとことでいいので理由を添えてください。It’s your birthday. だけでも、相手の受け取り方は変わります。

理屈が分かっても、いざその場で口から出るかは別の問題です。次は声に出す練習に進みましょう。

声に出して覚える発音とリズム練習

この章の要点
  • 支払いのフレーズは短いので、音のつながり(リンキング)が命。
  • It’s on me. は「イッツォンミー」、I’ve got this. は「アイガッディス」。
  • 強く言うと押しつけに、軽く早めに言うとさりげなく響く。
  • 動作と一緒に練習すると、本番で自然に出やすい。

支払いの表現はどれも短い一文です。だからこそ、単語を区切って発音すると不自然に響きやすく、逆にリズムをつかめば一気に本物らしくなります。主要フレーズの音を確認しましょう。

発音練習リスト
It’s on me.(イッツォンミー)/My treat.(マイ トゥリート)/I’ve got this.(アイガッディス)/I’ll get this one.(アイル ゲッ ディスワン)/Let me buy you a drink.(レッミー バイユーア ドリンク)/I’ll pick up the check.(アイル ピッカップ ザ チェック)/Let’s split the bill.(レッツ スプリッザ ビル)/I owe you one.(アイ オーユー ワン)
練習のポイント
語末の子音と次の語頭の母音をつなげる。It’s + on、pick + up、split + the の3か所が特に大切。強調するのは on、treat、got、split など内容語で、代名詞は軽く流す。
注意点
一語ずつ強く区切ると、譲らない主張のように聞こえてしまう。おごりの申し出は、軽く早めに、笑顔とセットが基本。

練習の方法としては、動作を伴わせるのが効果的です。手元にあるコースターやレシートを伝票に見立てて手を伸ばしながら、I’ve got this. と言ってみる。この身体の記憶があると、実際の場面で言葉が出やすくなります。

もう一つ試してほしいのが、往復での練習です。「申し出→遠慮→理由→お礼」の4手を一人二役で声に出します。It’s on me. / Are you sure? / You got the last one. / Thanks, I owe you one. これだけで、本番の会話の8割はカバーできます。

では最後に、覚えた表現をどう定着させるかを具体的に組み立てましょう。

場面別チートシートと1週間の練習プラン

この章の要点
  • 覚えるのは場面ごとに一つずつ。全部を暗記する必要はない。
  • カジュアルは I’ve got this.、お祝いは My treat.、バーは This round is on me.、仕事は I’ll pick up the check.、対等でいたいなら Let’s split the bill.
  • 1日1場面のロールプレイを1週間続けると、口が動くようになる。

覚えることが多いように見えますが、実際に必要なのは場面ごとに一つずつです。次の5つを自分の型として持っておけば、支払いの場面で言葉に詰まることはほとんどなくなります。

  • 友人とのカジュアルな食事 → I’ve got this. または It’s on me.
  • お祝いやお礼を込めた食事 → It’s my treat.
  • バーの一杯 → Let me buy you a drink. / This round is on me.
  • 仕事の会食 → I’ll pick up the check.
  • 相手が対等を望むとき → Let’s split the bill.

ここに、おごられたとき用の Thanks. I owe you one. を足せば、往復の会話が成立します。合計6フレーズです。

デスクでノートに英語フレーズを書き取りながら練習する学習者の様子
読んだあとに手と口を動かすと、フレーズが自分のものになる。

1週間の練習プランを組んでみます。1日5分で構いません。

  1. 1日目:It’s on me. の主語を入れ替えて5文つくる(Dinner / Lunch / Drinks / Coffee / This)。
  2. 2日目:treat 人 to ○○ の形で5文つくり、to を落とさない感覚を体に入れる。
  3. 3日目:I’ve got this. と I’ll get this one. を、伝票に手を伸ばす動作つきで10回言う。
  4. 4日目:おごる理由の一文を3つ暗唱する(お礼・お祝い・前回の埋め合わせ)。
  5. 5日目:おごられる側の返しを練習する(Are you sure? / Thanks, I owe you one.)。
  6. 6日目:割り勘の言い方と店への頼み方をセットで練習する。
  7. 7日目:「申し出→遠慮→理由→お礼→次の約束」の5手を一人二役で通しで言う。

7日目の通し練習まで終えると、実際の食事の席で頭が真っ白になりにくくなります。とはいえ、相手の反応が返ってくる練習には、やはり人が必要です。誰かに聞いてもらえる環境があると、間の取り方や声のトーンまで含めて身につきます。

最後に、学習者からよく出る疑問をまとめておきます。

よくある質問

この章の要点
  • 迷ったときの判断基準をQ&A形式で確認できる。
  • 相手が遠慮したときの読み取り方、目上の人への言い方も押さえておく。

「おごる」で一番よく使う英語はどれですか?

It’s on me. がもっとも使用頻度が高く、応用も効きます。主語を入れ替えれば Dinner is on me.(夕食は私が持ちます)や Drinks are on me.(飲み物は私のおごりです)のように、おごる対象を自由に指定できます。まずこの一文を確実に言えるようにしておけば、友人にも同僚にも使えます。

It’s on me. と My treat. はどう使い分けますか?

It’s on me. はカジュアルからややフォーマルまで幅広く使える万能形で、My treat. はそれより一段ていねいで「もてなす」気持ちが乗る表現です。誕生日や昇進祝い、目上の相手や取引先を招く食事なら My treat.、いつものランチや軽い飲みなら It’s on me. か I’ve got this. が自然です。

I’ll pay. と言うのは失礼になりますか?

失礼ではありませんが、pay は支払い行為そのものを指す事務的な動詞なので、食事の席では硬く、押しの強い宣言に聞こえることがあります。特に I’ll pay for you. は「あなたの分を代わりに払ってあげる」という上下関係が出やすいので避けたい形です。やわらげたい場合は Let me pay this time. のように Let me を前に置くか、I’ve got this. に言い換えてください。

Let’s go Dutch. は使ってはいけないのですか?

意味は通じますが、オランダ人をけちだと決めつけるステレオタイプに由来する表現なので、自分から使うのは避けたほうが安全です。英蘭対立の歴史から Dutch を否定的な意味で使う言い回しが英語に残った経緯があり、悪気がなくても不快に感じる人がいます。割り勘を提案するなら Let’s split the bill. を使えば、誰に対しても失礼になりません。

相手が遠慮したら、引くべきですか押すべきですか?

まず理由を添えてもう一度申し出て、それでも相手が split したいと言うなら応じるのが穏やかです。You got the last one, so this one’s on me. のように根拠を示すと受け取ってもらいやすくなります。相手が I’d rather split it. や Let’s keep it even. と言う場合は対等な関係を保ちたい意思表示なので、無理に押し切らないほうが関係は良好に保てます。

おごってもらったとき、何と言えばいいですか?

何に対するお礼かを具体的に言うのがコツです。Thank you for dinner. That was really kind of you. のように伝え、次を約束したいなら I owe you one.(借りができたね)や I’ll get you next time.(次は私が)を添えます。お礼を言わずに席を立つのは印象がよくないので、短くても必ず一言伝えてください。

bill、check、tab の違いは何ですか?

bill はイギリス英語で「勘定・伝票」を指し、check はアメリカ英語で同じ意味で使われます。tab はバーやパブで飲んだ分をまとめて記録しておく勘定のことで、Can I start a tab?(勘定を開けますか)のように使います。どれも I’ll get the bill. / I’ll get the check. / I’ll pick up the tab. の形で「おごる」を表せます。

支払いの一言が、関係を近づける

この章の要点
  • 覚えるべきは6フレーズ。場面ごとに一つずつで足りる。
  • 理由を添えるひと手間が、好意を受け取りやすくする。
  • 金額よりも、言い方と気配りが印象を決める。

海外で暮らしていると、現地で心から親しい友人をつくるのは簡単ではありません。言葉の壁が一番大きく、その先には文化の壁もあります。だからこそ、その壁を越えて仲良くなれた相手には、食事の一回くらいご馳走したくなるものです。

そのときに、理由をひとこと添えて It’s on me. とさらりと言えたら、金額以上のものが伝わります。逆に、おごられたときに Thanks. I owe you one. と返せれば、その場は次に会う約束へと自然につながっていきます。

支払いの表現は、覚える量は少ないのに使う機会が多い、費用対効果の高い分野です。今日はまず It’s on me. と I’ve got this. の2つを、声に出して言ってみてください。

それではまた、See you!